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2006年9月 9日

大悪が大事件を起こすのか?

 アメリカの時事週刊誌『TIME』が9月11日号で、「世界を変えた」と言われる5年前のこの日に起こったテロ事件の特集をしている。それを読んで、あの事件は実は米政府高官の陰謀だという説を相当数のアメリカ人が信じていることを知って驚いた。先の大戦への日本の参戦、ケネディー大統領暗殺など、歴史的な大事件をめぐっては、この種の“陰謀説”がよく出るものだが、人間心理の複雑さと想像力の多様さを表しているのだろう。

 同誌に載ったレヴ・グロスマン氏(Lev Grossman)の記事によると、ある調査機関がこの8月にアメリカの成人1,010人に聞いたところ、政府高官があの事件が起こることを知っていて放置したか、あるいは政府高官自身があの事件を起こしたという説について、「多分そうだ(very likely)」と答えた人と「あり得ることだ(somewhat likely)」と答えた人の合計は、対象者全体の36%に達したという。もしこの調査がアメリカ国民の考えを正しく反映しているならば、アメリカ人の3分の1以上が9・11のテロを「自国の政府の陰謀によるかもしれない」と考えていることになる。アメリカ国民の政府不信がそこまで達しているとは、私は知らなかった。

 ところで、グロスマン氏が伝える陰謀説の根拠は、次のようなものである。当時、撮影された世界貿易センタービル崩壊直前の映像を見ると、航空機が突っ込んで破壊されたフロアーより下方で、ビルの側面から白い煙のようなものが吹き出している。これは、事件前に何者かが注意深く仕掛けた爆発物による煙で、この爆発によって、あの頑丈な高層ビルは崩壊したのであって、航空機の衝突と上層部の火災程度で、ビル全体が崩壊することなどあり得ないというのである。

 また、国防総省ビルの破壊は、ハイジャック機によるのではなく、ミサイルあるいはもっと小型の飛行機によるものだ、と陰謀説は考える。なぜなら、建物の外壁に開いた穴の横幅は約23メートルだが、ハイジャック機の両主翼を拡げた幅は38メートルある。この幅より広い穴が開くのならまだ分かるが、それより15メートルも狭い穴がどうやって開くのか。また、事件直後の現場付近の状況は、大型機が墜落したにしては機体の散乱などがなく、きれいに整っている。衝突前に機体が滑ったはずの芝生もほとんど無傷だし、大型機は5本の街燈をなぎ倒すはずだが、これも驚くほど被害が少ない。そして最後に、国土防衛のための28の空軍基地から戦闘機が1機も発進しなかったのはなぜか。それは、発進命令が上層部から出されなかったからである。すなわち、政府上層部には戦闘機が飛んでは困る理由があった、というのである。

 一見つじつまが合わない現象を見つけて、そこから想像力を働かせ、次のつじつまの合わない現象を探し、さらに想像を広げる。一枚の写真、ワンカットの映像は、めまぐるしく遷り変わる無数の現象の中のさらに細かい一部である。それをもとに壮大な物語を組み立てるのは、小説家のよくやることだ。芸術や表現活動では、これもいいだろう。しかし、それによって現実世界を解釈するのは間違いである。とりわけ、様々な文化や価値観が複雑に関わり合っている国際問題を、そういう“微視的”“単眼的”なメンタリティーで捉えることは危険である。にもかかわらず、そういうものの見方に一国の3分の1以上の国民が影響されるのは、きっと理由があるだろう。
 
 グロスマン氏もそのことに触れ、この記事の中で心理学的視点からこんな説明をしている--人間には「大きな出来事の背後には大きな原因がある」と考える傾向がある。だから、21世紀初頭の世界を変えた9・11事件は、決意に燃えた少数のテロ集団が起こしたと考えるよりも、超大国の政府高官が、中東の油田独占等をねらい、綿密なる計画によって、国民の犠牲など構わずに起こした陰謀である、と考える方が納得がいくのである。もっと簡単に言えば、「大きな悪現象の原因は大きな悪である」ということだ。そう考える方が、心が落ち着く。その反対に「大きな悪も小さな悪から起こる」と考えることは、我々の心を不安にさせる。

 ここまで書いてきて思い出したのは、ブッシュ大統領が最近始めた演説キャンペーンのことである。9月4日の本欄でも書いた通り、彼は自分が始めたイラク戦争を正当化するために、「イデオロギーの戦い」という言葉を使い、ナチスや冷戦まで引き合いに出して、戦う相手を巨大化し、悪魔化している。この行動の背後にも「大きな悪現象の原因は大きな悪である」と信じる心理的傾向が潜んでいるようだ。しかし、私はこう訴えたい。小さなボタンの掛け違いからでも大きな誤解は生まれ、大きな対立へ向うことはある。夫婦ゲンカのきっかけは、大抵小さなものだ。それが普通「夫婦ゲンカ」で終り、裁判沙汰や殺し合いに発展しないのは、夫婦が基本的に相手を信頼し、愛しているからだろう。あるいは、少なくとも相手を“悪”と見ていないことは確かだ。しかし、相手を“悪”として全面否定することになれば、小さな誤解が大きな事件に発展する。“悪”を認める者は結局、自ら“悪”を現すのである。

谷口 雅宣

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コメント

この陰謀説は私も聞いております。
最初に聞いたのは3年程前です。

ペンタゴンへの突入の件はいくつかの事実?があるようで、
一つはあの角度で飛行機がペンタゴンのあの場所に突入するにはかなりのベテランパイロットでも難しいそうです。

それと、ブッシュ一族とビンラディン一族との関係はかなり古い繋がりでその資料がペンタゴンの破壊された部署だったとも言われておるそうです。

そのほかにも、トレーディングタワーのユダヤ系企業やアングロサクソン系企業は当日何故か休みが多く被害者が少ないとか、諸々言われております。

何処から何処までが本当なのかもわかりません。
でも、当日ブッシュ大統領はワシントンにいなかったことだけは確かであり、事件の事実を知らされても驚かなかったことも事実です。

アメリカという国は国民の血を流すことはある程度はしようがないと思う国なのかもしれませんね。
あるジャーナリストは「アメリカにおいて戦争とは公共事業である。それも国外で行う公共事業だ」と言う人もいるくらいですから、真偽のほどはわかりません。

投稿: 佐藤克男 | 2006年9月10日 16:37

この事はカナダのCBCニュースでも報道されていました。関連サイトへのリンクもあります。

http://www.cbc.ca/sunday/

アナウンサーが報道を締めくくるに当たり言った言葉、"Let us keep asking questions."が印象的でした。

渕上幸江

投稿: 渕上幸江 | 2006年9月11日 00:40

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