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2006年9月19日

サハリン2の事業停止

 日本企業も参加するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」に対し、ロシア天然資源省が事業化の調査承認を取り消すと発表し、事実上の事業停止命令となった。今日(19日)付の新聞各紙が一斉に報じている。理由は、環境対策が不十分ということだが、同省は2003年7月に環境や採算性などの問題を検討した専門家による事業化調査をもとに、この計画を一度承認していたし、石油生産はすでに99年から始まっているから、妙な“言いがかり”のようにも見える。このため、プーチン政権の資源外交の一環として、ロシア国営天然ガス独占企業であるガスプロムの権益獲得と国家統制強化をねらったものと思われる。
 
 今年1月7日の本欄で、「エネルギーの政治力」という題でロシアの強引な天然ガス値上げ策について書いたのを、読者は覚えているだろうか? ロシアは、ウクライナ向けの天然ガスの供給を突然止めてしまい、ガスプロムを経由する方法で一挙に何倍もの値上げを達成した。その過程で、ウクライナと同じパイプラインを使っていた西ヨーロッパ諸国を一時、大混乱させたのである。私はその時、「ロシアが各国の“忠誠心”を天秤にかけて価格を操作する可能性が大きい」と書き、さらにこのことが「サハリンの石油・天然ガス開発に期待している日本や中国との関係にも言える」と述べた。今回は直接「価格」を吊り上げはしないが、開発事業全体を“人質”に取ることで、間接的にロシアの取り分を増やすことを狙っているようだ。
 
 このプロジェクトは、エリツィン時代の1994年に契約が締結され、99年から石油生産が始まり、天然ガスはパイプラインで南部へ輸送し、LNG(液化天然ガス)に加工して2008年にも輸出開始が見込まれていた。ロシアが外資導入を目的として計画したため、事業主がロシア政府に利益の6%を支払えば、投資回収まで石油・天然ガスの所有権がすべて事業主に帰属するという“資本有利”の契約だった。資本比率はロイヤルダッチ・シェルが55%、三井物産25%、三菱商事20%という外資のみの出資だった。そこへ、近年になってロシア側から「契約内容への不満」が表明されるようになり、国営企業ガスプロムを割り込ませる交渉が進み、昨年7月には、シェルの保有分から25%の権益を獲得することで合意していた。ロシアは、今回の強硬策を打ち出すことで、外資側からさらに譲歩を引き出そうとしているのだろう。

 19日付の『ヘラルド朝日』によると、このロシアの決定により影響を受けるのは、「サハリン2」だけでなく、その北部の「サハリン1」と「カリアギンスク」の2プロジェクトも含まれ、エクソン・モービルとトータルという2つの外資も影響されるようだ。「サハリン1」にはロシア国営企業ロズネフトが20%の権益をもっている。また「サハリン2」の油田からは、すでに日量7万バレルを超える石油が生産されており、プロジェクト完成の暁には生産量は倍増する予定だった。同プロジェクトの総事業費は200億ドル(約2兆3千億円)で、そのうち三井物産は約5700億円、三菱商事は約4600億円を負担する見込みだが、問題が長期化すれば当然、負担は増大する。

 日本政府は、中東に依存していた化石燃料の輸入先を多様化する政策の一環として、「サハリン2」への日本企業参加を支援してきたが、ロシアの強硬な資源外交に振り回される形になった。19日付の『日本経済新聞』夕刊によると、政府は斎藤泰雄・駐ロシア大使を通じて18日に同事業の円滑な実施を求めたといい、二階俊博・経済産業相は同日午後にも、ロシアのロシュコフ駐日大使をロシア大使館に訪ね、説明を聞く予定だという。

 海外の化石燃料に執着すれば、日本は今後ますますこの種の政治的摩擦に巻き込まれることを覚悟しなくてはなるまい。国内に豊富にある自然エネルギーの開発促進が急務のゆえんである。

谷口 雅宣

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