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2006年9月 4日

イスラームを悪魔化してはならない

“テロとの戦争”を指揮するアメリカ大統領ブッシュ氏は現在、9・11の5周年記念日を前に、11月の議会中間選挙を共和党有利に運ぶための演説キャンペーンを行っている。通常の場合、私は他国の大統領や首相が自分の選挙運動をどう戦うかについて注文をつけるつもりはない。しかし、その「他国」がわが国の最重要同盟国であり、さらに世界唯一の超大国である場合、その国の動向がわが国と世界の将来に大きな影響を与える可能性があるため、苦言を呈することは許されると思う。また、逆に沈黙することは、その可能性を容認することになるから、責任ある立場にある人間は発言する義務があると思うのである。だから、これまでもブッシュ氏の世界観・戦争観や地球環境問題への姿勢について、私は繰り返し発言してきた。

 国際政治でよく指摘されるのは、一国の大統領や首相が内政で困難に直面する時、“敵”を外に作って危機感を煽ることで、国内を団結させ困難を乗り越えようとする手法である。これは政治の邪道であることは言うまでもないが、悲しいことに常道でもある。そしてこの手法は、国際関係だけでなく、企業や団体の運営にも使われることがある。これが問題なのは、本当の問題は内政(つまり、自分の失政)にあるにもかかわらず、国民の目を外へ向けさせ、“外敵”を作り上げることによって、その外敵が“仮構”から“本物”になる道を開くことになるからである。生長の家の用語を使えば、これは言わば「心の法則」の逆用である。“敵”や“悪”を心で認めれば、それが如何に仮の存在であっても、現象的にはいよいよ明らかに現れてくるのである。

 私は昨年6月2日の本欄で、その手法の1バリエーションを“悪魔化”という言葉で表現した。これは私の造語ではなく、demonization という立派な英語の翻訳である。その際、アメリカ国内でこの悪魔化が北朝鮮に対して行われていることを指して、それは心理的な戦争準備だから、危険信号であると言った。なぜなら、「悪魔化は、自分と同類の人間を攻撃することに対する心理的抑制のタガを緩める。それは国民の心を戦争へ、戦闘へと向わせる。相手に対する同悲同慈の思いを弱める」ための心理的操作だからだと書いた。そして、かつての日米戦争の前にも同じことが行われたことを指摘した。

 第二次大戦後に起こった「冷戦」の前にも、外敵を作り、危機感を煽る動きが起こった。それはジョージ・ケナン氏(George Kennan)がアメリカの外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』に書いた論文で、ソ連とアメリカの奉じるイデオロギーと価値観は互いに相容れないから、アメリカはソ連を囲い込み、長期にわたってその膨張を封じ込める必要がある、と説いたのだった。つまり、“外敵”をまず心で作ることで、本当に外敵が現れたのである。これと似たことが、前世紀末から起こっている。それは、同じ外交専門誌の1993年7月号にハーバード大学のサミュエル・ハンチントン教授(Samuel P. Huntington)が書いた「文明の衝突論」を端緒にして、「西欧」「イスラーム」「儒教」などの“文明”間で衝突が起こるとする考え方が打ち出されたからである。そして、今日の現実がこれに続いている。
 
 前置きが長くなってしまったが、ブッシュ大統領の演説キャンペーンの問題点を述べよう。ブッシュ氏は8月31日、ユタ州での保守派の集まりである在郷軍人会で演説を行ない、「西欧」と「イスラーム」をイデオロギーの対立という視点でとらえ、さらにこの2大勢力の関係を「民主主義」と「ファシズム」、あるいは「自由主義」と「共産主義」に対応させた。そして今日、“テロとの戦争”をやめよと言う者は、ナチの台頭を前にして手を打たなかった昔の過ちの二の舞いを踏む、と批判したのである。

 もちろんブッシュ氏は、イスラーム信奉者すべてを「ファシスト」と呼んだのではなく、「自由社会はイスラームの曲解者(their twisted view of Islam)にとって脅威である」という表現を使った。しかし、8月11日の本欄でも述べたように、イスラーム社会には何が“正統”で何が“曲解”かを判別する基準も機関もない。とすると、ブッシュ演説を聞いたイスラーム信奉者たちは、直接自分のことを言われたと思わなくても、自分の仲間を敵視されたと思うだろう。さらにこの演説の中では、“自由の敵”として「アルカイーダ」「レバノンのヒズボラ」「イラクの反乱者」が名指しされているが、第1はスンニ派(ワッハーブ主義者)、第2はシーア派、第3はスンニ派とシーア派の双方を含む。つまり、現代のイスラームの主流全体を指しているとも解釈できるのである。

 今回の演説キャンペーンは、国内で評判が悪いイラク戦争を正当化し、イラクからの撤退を唱える民主党に対抗して、過去の“テロとの戦争”が第二次大戦や冷戦と同様に“善”と“悪”との必要な戦いであるとして過去の記憶を喚び起こさせ、中間選挙を有利に戦おうとする「内向き」のものだろう。しかし、「内部を固めるために外部に敵を作る」という愚策を用いてしまった。そのため、この道をさらに進めば、外部に本当に“新たな敵”を作ることになるかもしれないのである。「現象世界は心でつくる」という事実を、ブッシュ氏に伝える方法はないのだろうか?
 
谷口 雅宣

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コメント

ありがとうございます。すばらしいご指導を心から感謝申し上げます。ブッシュ大統領はじめ世界の指導者達の実相を祈る事、愛と光の波動を送ること、神は実在しますので神に祈る事、生長の家で言えば、世界平和の祈りをする事が大切だと思いました。私も今日から祈ります。雅宣先生の小閑雑感の2月11日を読ませていただき日本国の建国の理念そのままの世界連邦が実現し競争世界でなく協力し合う世界が本当の世界なんだと思いました。プレゼンター社のよい事ニュースがあることも知り旅日記の素敵な絵も観せて頂きました。これからも遡ってたくさんのご教示を仰ぎたいと日々楽しみに致しております。髭とおしゃべりのページも妙に納得してしまい楽しかったです。最後になりますが、ローズマリーかじってみました。松脂のような香りから始まり、苦味と共にハッカのような生姜のような味が広がりました。後はレモンバームと一緒にハーブ茶でいただきました。私は好きな味です。昔は香木や悪魔払いの小枝としても使われたそうです。記憶力を高めたり心臓や肌にもよくあらためて効用の大きさに驚きました。又結晶の件ですが私の説明不足でした。「水は答えを知っている」というアメリカでベストセラーになった本で著者は日本人です。この方の本はお勧めです。長くなりましたが、これからもご指導よろしくお願いいたします。昨夜鈴虫の鳴き声を聞きました。秋を感じました。それでは又。

投稿: ローズマリー | 2006年9月 5日 16:36

ローズマリーさん、

 結晶の件ですが、「バカヤロー」という念を込めた水を凍らせると醜い結晶ができるが、「ありがとう」でやると美しい結晶になるというものですか? あれは、やはりマユツバですよ。

投稿: 谷口 | 2006年9月 7日 23:06

ありがとうございます。お言葉を返すようで心苦しいのですが、私は「水は答えを知っている」を読み愛と感謝の波動がどんなにすばらしいものであるかということを改めて気づかせていただきました。そして世界の平和を祈ることの大切さを学ばさせていただきました。信憑性はともかくとして私にはとても参考になる本でした。ありがとうございました。

投稿: ローズマリー | 2006年9月 8日 16:30

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