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2006年8月18日

初の大規模環境難民

 温暖化による気候変動などで住環境が悪化し、他の地へ脱出する人々のことを「環境難民」と呼ぶことがある。よく取り上げられるのは、ツバルなどの島嶼国の人々のことだが、このほど「世界で最初の大規模環境難民はアメリカ南部・メキシコ湾岸の人々である」との結論をアメリカの研究機関が出した。その研究機関とは、地球環境問題への取り組みで有名なレスター・ブラウン氏(Lester R. Brown)が率いるアースポリシー研究所で、8月16日付のニュースレターの中で述べている。

 それによると、これまでアメリカが経験したハリケーンの被害では、住民らは被災地から一時避難しても、現場での復旧作業が進んで当局が安全宣言を出した後は、ほとんどの人が被災地にもどって生活を継続できた。しかし、カトリーナやリタなどの昨年夏の巨大ハリケーンの被害では、そのパターンが破られたという。すなわち、被害に遭ったニューオーリンズ市を初めとしたミシシッピ、ルイジアナ両州の被災者100万人は、河べりや海岸地帯から離れて内陸部へ移動したか、あるいはテキサスやアーカンソーなど隣接する州に逃れた。そして、そのうちの約25万人は戻りたくても、もどれないのだという。
 
 その理由は、8.5メートルも増水したミシシッピ河によって水没した町の中には、すべての建築物が破壊された町もあり、そういう場合、避難民が被災地にもどる目的になるものが何もないのだという。例えば、ニューオーリンズ市の南東へ64キロ伸びるセント・バーナード郡は、ほとんどが人の住めない状態となり、同市の大半の地域も人が住めなくなった。1年後の現在でも、同市は広域にわたって、電気、上下水道、廃棄物処理、電信電話施設が復旧していないという。こうして、地球温暖化に主たる責任のある国が、最も深刻なハリケーン被害に遭うという事態が起こっている。

 人口の減少が“難民”の多さを物語っている。カトリーナに襲われる前のニューオーリンズ市の人口は46万3千人だったが、カトリーナ後の人口は9万3千人に減り、その南に隣接するジェファーソン郡の人口は、45万3千人から4万2千人も減って、41万1千人になっているという。また、ミシシッピ河が流れる海岸沿いの3つの郡は、いずれも人口が減少した。今年7月の時点ではハンコック郡は8千人、ハリソン郡は1万2千人、ジャクソン郡は4千人の減少である。同じく7月のデータでは、ニューオーリンズ市、ルイジアナの3つの郡、そしてミシシッピ州の3つの郡の人口は、合計で37万5千人減少した。まだ帰還途中の人々もいるにはいるが、その数は次第に減少しており、同研究所の概算では、少なくとも25万人の元住民は、別の地に生活の場を移しているため、この地域にはもう戻らないと思われる。だから、これらの人々は「環境難民」と呼べるだろう。

 ところで、アメリカに次いで温室効果ガスを排出している中国でも、このところ気候変動による被災者の数が増えつつある。18日の『産経新聞』は、今夏の中国での旱魃や台風の被害をまとめて伝えているが、それによると、内陸部の四川、甘粛省などでは35度を越す猛暑続きで1千万人が飲料水不足に陥っており、逆に南東部の諸省では、4回の台風の襲来で死者・行方不明者が約1,400人に上っているという。甘粛省や重慶市などでは7月に入ってほとんど雨が降らず、25日間が35℃以上の高温となり、最近では40℃前後に気温が上がり、15日にはついに最高気温44.5℃となり、1953年以来の記録を塗り替えた。新華社電によると農業などへの直接被害は、26億4千万元(約396億円)に達するという。

 7月25日の本欄では、アメリカ西部が40℃前後の猛暑に襲われていることに触れた。7月30日には、ヨーロッパの猛暑と南米最大の「イグアスの滝」が渇水に見舞われていることを書いた。地球全体が温暖化していることは明らかであり、その被害も深刻化しているのに、人間同士が憎み合い、殺し合いをしているのでは事態は何も改善されない。かと言って経済発展だけでは温暖化は進行するばかりである。日本人も、ナショナリズムで頭に血を上らせているだけではダメだ。諸外国と一致協力し、冷静な判断によって、温暖化防止に向かって経済も政治も転換していかねばならないのである。

谷口 雅宣

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