カリフォルニア州が排出権取引に参加?
地球温暖化の問題をどう解決するかについては様々な方法があるが、主なものは次の3つだろう--①規則や法律で温室効果ガスの削減を義務づける、②省エネ、省資源を義務づける、③温暖化しないための技術革新を促進する。①と②は、まったく同じではないが似た方法で、制度や社会的取り決めを変更するものだ。つまり、「規制」によって温暖化の直接原因を減らし、間接的に③の効果をねらう。東欧や中国のような中央集権的な社会体制では、これがやりやすいかもしれない。しかし、日本やアメリカのような自由主義社会では、この方法は既得権のある経済界などに人気がなく、あまり進まないようだ。だから自由優先の社会では、政府としては③を進めることがやりやすいのだろう。
アメリカは、今年初めのブッシュ大統領の一般教書演説以来、③の動きが強まっているようだ。これには、前年にアメリカ南部を襲った巨大ハリケーンが一役買っているらしい。 時事週刊誌の『Newssweek』は7月17日号で「アメリカの新しい緑化の動き」(The New Greening of America)という特集を組み、カトリーナやリタのような大型ハリケーンの経験が多くのアメリカ人の意識を変え、各方面で環境保護意識が高まっていることを、具体例を挙げて伝えている。この特集を読んで初めて知ったのは、現大統領のブッシュ氏が自分自身を「自然保護主義者(conservationist)」と考えていることだった。「ご冗談を……」と思ったが、こういう事実がある--彼は大統領に就任前、テキサスの自分の農場に別荘を建てたが、そこには雨水利用システム、太陽光発電パネル、地熱利用による冷暖房設備が据えつけられていた。そして、今年1月の演説以後、大統領は各地でハイブリッド車と太陽光発電を推奨して歩いている--つまり、上記の③を実行しているそうだ。
しかし地球温暖化の現状は、③だけでは間に合わない可能性があるとの危機感をもつ政治家も少なくない。8月1日の『ヘラルド・トリビューン』紙は、イギリスのブレアー首相とカリフォルニア州のシュワルツネッガー知事が“炭素市場”を共同で設立する合意を結んだと報じた。炭素市場とは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの「排出権取引」が行われる市場のことで、京都議定書によって枠組みが作られた。排出権取引については、本欄でも何回も取り上げている(例えば、5月16日や5月19日)が、EUは、この制度を加盟国に義務づけている唯一の地域で、実際に莫大な資金が排出権取引のために動いている。アメリカは同議定書に国としては参加していないが、私企業として排出権取引に参加しているものもいるようだ。
上記の記事によると、この合意の目的は、CO2排出のコストを決めることにある。CO2の排出量に上限を定め、そのレベルから排出削減を達成した企業が報酬を得る仕組みを作ることによって、環境負荷の少ない新しい技術を育成しようというもの。主な対象は、自動車その他の運輸交通手段から排出されるCO2という。シュワルツネッガー知事は、2010年までに同州の温室効果ガスの排出量を2000年のレベルにまで下げることを求めており、ブレアー首相は、2050年までに1990年のレベルから60%の排出削減を求めている。運輸交通部門から排出される温室効果ガスは、カリフォルニア州では排出量全体の41%あり、イギリスでは28%という。また、人口も自動車も多いカリフォルニア州は、温室効果ガスの排出量も「国」の規模であり、昨年は世界ランキングで12番目だった。
『ヘラルド・トリビューン』紙は2日の紙面でもこの合意について報じている。それによると、カリフォルニア州は、イギリスが加盟しているEUの排出権取引制度(Emissions Trading Scheme)の原則をいくつか取り入れ、可能ならばこの制度に加入することも検討するという。国が参加していないのに、州が加入するというのだ。こうなってくると、“ブッシュ後”のアメリカ全体の動向にも少なからぬ影響を与えることになるだろう。
京都議定書をまとめた日本では、この制度はまだ「希望すれば参加できる」程度の消極的な扱いしか受けていない。問題点がいくつか指摘されているからだろうが、政府や関係各界がその解決に力を入れつつ、環境税や炭素税も含めた“全力投球”の姿勢で温暖化防止に取り組んでもらいたい、と私は思う。
谷口 雅宣
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