GM作物に“二次害虫”が発生
遺伝子組み換え作物(GM作物)に対する抵抗は日本ではまだ大きいが、お隣の中国は唯物論が“国是”のためか、抵抗が少ないと聞いていた。4月13日の本欄では、中国やインドでGM種の栽培が成功していることに触れたが、このたび米コーネル大学の研究者が行った調査では、中国でのGM種の綿花栽培は必ずしも成功していないとの結果が出た。その理由は、GM種が想定した“害虫”は激減したものの、想定外の他の虫が発生したため、それに対処するための費用が増加して、GM種栽培のメリットの大部分が失われているというのだ。科学ニュースを扱うサイト「Newswise」と7月25日付の『New Scientist』誌が伝えている。
GM作物の抱える問題については、『今こそ自然から学ぼう』(2002年)や『神を演じる前に』(2000年)でやや詳しく扱ったが、“二次害虫”の問題は私としても予想外だった。
この研究は、7月25日にアメリカのロングビーチ市で行われた米農業経済連合(American Agricultural Economics Association, AAEA)の年次総会で報告されたもの。今回、研究対象となったGM作物は「害虫抵抗性」を組み込んだ綿の木で、土中のバクテリアの名前の頭文字を取って「Bt綿花」と呼ばれている。つまり、このバクテリアが産生する殺虫毒素を綿の木がもつように、遺伝子組み換えが行われている。ところが、この毒素は葉を食べるオオタバコガの幼虫(bollworm)にだけ効く。Bt綿花の栽培を始めて7年もたつと、この害虫以外の虫(例えば、メクラカメムシ)が相当増加した。そこで農家の人たちはそれらを駆除するために、植物の成長期にはかつての20倍もの殺虫剤を散布しなければならなくなったという。これは、5つの省にまたがる481の農家を調べた結果だ。
この研究は、Bt綿花を栽培することによる経済的変化を長期的に調べた最初のもの。短期的には、この綿の栽培を始めてから3年までは、Bt綿花を植えた農家では殺虫剤の使用量が劇的(7割も!)に減り、通常の綿花を栽培した農家に比べて36%高い収入を得たという。しかし、2004年までには、それらの農家では通常の綿栽培農家と同じくらい多く農薬散布をするようになったという。その結果、GM種の綿を栽培した農家は、通常種の農家よりも8%少ない収入しか得られなかった。というのは、GM種の綿は通常種の3倍の値段だからだ。研究者たちは、このような“第二の害虫”出現の問題は、Bt綿花の栽培が長い国ほど深刻になりえると警鐘を鳴らしている。
調査に当った世界銀行のシェンフイ・ワング博士(Shenghui Wang)によると、Bt綿花は、開発後すぐに4大綿花生産国であるアメリカ、中国、インド、アルゼンチンで栽培が始まり、今や世界の綿花生産量の35%を占めるに至った。中国では、500万人以上の農民がこれを育て、メキシコや南アメリカでも栽培されている。アメリカでは、Bt綿花の栽培の際には、オオタバコガの幼虫を死滅させないために“緩衝地帯”を設けることが義務づけられているという。この緩衝地帯では普通種の綿を栽培しなければならず、そのためにこの幼虫は生き続け、GM種に対する抵抗性は生まれないと考えられていた。中国では、この緩衝地帯を設置する義務はない。今回の研究は、GM作物の栽培には、長期的には「二次害虫の出現」という新しい問題があることが分かったのである。自然界の複雑さと、人間の予測の限界をよく示していると思う。
谷口 雅宣
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