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2006年8月16日

イスラームはどうなっている? (5)

 本シリーズではこれまで、イスラームのスンニ派中のワッハーブ派の思想と、その信奉者であるオサマ・ビンラディンの考え方を追ってきたが、今回イギリスで摘発された旅客機爆破未遂事件の容疑者については、その動機を考えるにいたっていない。その主たる理由は、容疑者に関する詳細がまだ未発表であることによるが、「推測」のレベルでは何が言えるだろうか?

 私は昨年7月にロンドンで起こった同時多発テロに関して、「ロンドンのテロ」という題で本欄に4回にわたって書いた(7月12日同14日同20日8月3日、『小閑雑感 Part 5』に収録)。その時の結論は、イスラーム原理主義による自爆テロが起こる背景には、その思想中にある「対照化」の考え方と、実行犯の心中の「自己破壊」願望が大きな役割を果たしており、若い彼らはこの2つの力を得て「失われかけたイスラム教徒としてのアイデンティティーを獲得する」ために自爆テロへ走った--というものだった。ただし4回目の文章では、この結論とは必ずしも一致しない分析やグループ心理学に原因を帰する見解も紹介した。そして、メディアがリアルな惨劇の映像を繰り返し報道することが、(その意図とかかわりなく)自爆テロ実行の環境を整えている可能性を指摘した。

 メディアの影響力という点では、前回引用したオサマの対米宣戦布告の文章そのものが、マスメディアを通して世界中の“虐殺”を読者が見聞していることを前提としている。これに加えて、「マス」でないメディア、つまりインターネットの影響力を考えれば、1人の人間がテロ実行に至るまでの過程には、相当複雑な情報の流れが関係していることが伺える。
 
 とは言っても、今回の未遂事件の背後にはアルカイーダの影響があることは、どうやら事実のようだ。今日の『朝日新聞』はイスラマバード発の記事の中で、アルカイーダと関係が深い原理主義組織タリバーンの関係者が、1年ほど前からアルカイーダの軍事訓練所にイギリス国籍の若者グループが頻繁に出入りしていたと証言したことを伝えている。ただし、今回逮捕された特定の人物がそこにいたという話ではない。が、軍事訓練所はパキスタンとアフガニスタンの国境付近にあり、今回の事件の主犯格と目されているラシド・ラウフ容疑者(25)の出身地はカシミール地方。その弟のタイブ・ラウフ(22)も容疑者としてイギリスで逮捕されている。パキスタンのアフガンとの国境はカシミールに近いとは言えないが、軍事訓練所ではカシミール地方の過激派メンバーがイギリス人グループに付き添っていたというから、そのグループがカシミールと関係がある可能性はある。

 推測の域を出ないが、私は昨年7月のロンドンのテロが、今回の旅客機爆破未遂事件の背後にあるような気がする。昨年のロンドンでの事件は、アルカイーダなどのテロ組織とは直接関係のない“アマチュア”の犯行だとされている。そうであったとしても、それはイギリス国籍のイスラーム信奉者に多大な衝撃を与えたはずだ。恐らく多くの穏健派は「テロ非難」で一致しただろうが、少数の原理主義的イスラームの影響下にある若者は、この事件を目の当たりにして「先を越された」とか「自分にも何かできるはずだ」と考え、“プロ”を志して軍事訓練を受けに海外へ渡った--そんな経緯が考えられるのである。

 日本の特攻隊の精神を忘れてしまった日本人にとっては考えにくいことかもしれないが、イスラーム原理主義においては、殉教は善であるだけでなく、それによって来世で最高の楽園が約束されている。『コーラン』の「ムハンマド」の章第4~6節には、次のようにある:

「アッラーの道に斃(たお)れた者の働きは決して無になさりはせぬ。きっと御自ら手をとって、その心を正し、前々から知らせておいて下さった楽園にはいらせて下さろう。」
 
谷口 雅宣

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