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2006年8月12日

イスラームはどうなっている? (2)

 イギリスで摘発された航空機爆破テロ未遂事件の主犯格の容疑者は、イスラム原理主義組織アルカイーダの工作員である疑いが強いと、パキスタン外務省が発表した。この容疑者はすでにパキスタン当局に拘束されていて、名前はラシド・ラウフという26歳のパキスタン系イギリス人だという。発表によると、ラウフ容疑者は「アフガニスタンを拠点とするアルカイーダとの関係を示す証拠がある」(『朝日』12日夕刊)といい、パキスタンのシェルパオ内相はロイター通信に同容疑者のことを「国際テロ組織アルカイーダの工作員」と明言した(『日経』12日夕刊)。これが事実ならば、今回の事件はアルカイーダの直接の関与によるものということになる。

 アルカイーダの指導者、オサマ・ビンラディンは、スンニ派の中でも聖典の字義通りの解釈を重んじるワッハーブ派に属することは、昨年7月14日の本欄でも触れた。原理主義の特徴の1つはこの「聖典の字義通りの解釈」という点にあり、万教帰一を掲げる生長の家とは基本的に相容れない。このことも拙著『信仰による平和の道』(2003年、生長の家刊)にやや詳しく書いた。そこで今回は、ワッハーブ派のどこがどのように原理主義的であるかを、前回紹介したカーレド・アブ・エルファドル氏の著書から引用しながら書いてみよう。

 エルファドル氏は、今日のイスラム社会では“穏健派”(moderates)と“純潔派”(puritans)の考え方の対立がどの国にもあり、またスンニ派とシーア派という2大宗派の内部にも、同じ考え方の対立が存在すると指摘している。ワッハーブ派は、この中の“純潔派”の運動に最も大きな影響を与えている宗派の1つだという。彼によると、「タリバンやアルカイーダなど、国際的問題を起こした悪名高いイスラムのグループは、どれもがワッハーブ主義の大きな影響を受けてきた」。この思想は、18世紀のイスラーム伝道師ムハンマド・アブダル・ワッハーブ(1792年没)によって生まれたもので、趣旨をごく簡単に言えば「イスラーム信仰者はイスラームの真っ当な道から逸れて間違った道を進んでいる。だから、神に喜ばれ、受け入れられるためには、唯一の正しい道に立ち帰る以外にない」というものである。

 この“唯一の正しい道”とは、イスラームの教えに混ざったすべての不純物--神秘主義、合理主義、シーア派的思想を含む異端的、異教徒的要素のすべて--を取り去ることによって実現すると考えるのである。近代合理主義の考え方は、日本を含む世界のほとんどの国を大きく変容してきたが、ワッハーブ主義はそれを排除するだけでなく、理性を重んじるシーア派の考え方もスーフィズム(神秘主義)も敵視して、コーランその他の聖典に書かれた言葉を唯一の根拠として、公私すべての問題の解決を図ろうとするものである。この考え方では、預言者モハンマドが聖典で説いたことを字義通りに解釈・実行し、正しい儀式や行を実践することによってのみ、純粋で、真っ当な本物のイスラームに回帰することができると考えるのである。言い換えれば、この方法と考え方を採用しなればイスラーム社会に明日はないのである。

 ワッハーブ派によると、イスラーム法における「解釈の多様性」(前回解説)こそが、イスラーム社会を分裂させ、後進性と弱さを生み出してきたとされる。こうして、ワッハーブ思想に至って、「解釈の多様性」を認めてきたイスラーム法の長い伝統は崩れ去るのである。その代わり、「本当のイスラーム」か、さもなければ「不信仰者」かという二者択一的思考が起ち上がる。エルファドル氏によると、「アブダル・ワッハーブは、イスラム信仰者に中間の道はないことを一貫して強調した。すなわち、イスラム信仰者は“本当の信仰者”でなければ“不信仰者”なのである。そしてもし、本当の信仰者でなければ、ワッハーブはその人を異教徒と見なし、それに相応しく取り扱うことを躊躇しなかった」(pp.48-49)という。
 
 このように見てくると、ワッハーブ派の考え方は、私が『信仰による平和の道』(p.7)で紹介した北アメリカのキリスト教原理主義の4つの特徴のうち、2つと完全に一致する。つまり、①聖典の無謬性と文字通りの解釈を主張する、②自分たちと他の教派とを対立的に見る、の2つがここに見られるのである。
 
谷口 雅宣

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