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2006年7月29日

遺伝子組み換えアイスが登場

 梅雨明け宣言を待たずに、関東地方は一気に真夏の気温になった。冷たいものが美味しい季節である。ちょうど今日の『日本経済新聞』は、別冊の「NIKKEI プラス1」で日本の“ご当地アイス”の品評会をやっていた。“アイスクリームの専門家”という10人に、各地の特産品を材料に使ったアイスクリームの中から美味しいものを10位まで挙げてもらい、ランクを決めたそうだ。

 その結果は、①吟果膳 清水白桃(岡山県)、②夕張メロンアイス(北海道)、③だだちゃ豆アイス(山形県)、④本生わさびアイス(静岡県)、⑤黒豆アイス(兵庫県)、⑥サトウキビアイス(沖縄県)、⑦ドラキュラ・ザ・プレミアム(青森県)、⑧いもアイス(埼玉県)、⑨トマトアイス(熊本県)、⑩焼きなすアイス(高知県)、になったという。選にはもれたが、珍しいものでは牛タン(宮城県)、カニ(北海道)、ウナギ(静岡県)を原料に使ったアイスクリームもあり、合計するとご当地アイスは千種類を超えるというから驚きだ。

 これは日本人が特別アイスクリーム好きということか?……と思ったら、そういうことでもないようだ。7月27日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、先進国における昨今の健康志向とアイスクリーム好きを両立させるために、ついに遺伝子組み換え技術を使ったアイスクリームが登場した、と伝えている。「バターのように官能的でありながら、ブロッコリのように健康的」であろうとして探し当てたのが、北極海の魚がもつ特殊な蛋白質なのだそうだ。これを利用して、こってりとクリーミーで密度が濃いにもかかわらず、ローファットで、添加物も少ないアイスクリームができるらしい。

 今年の6月、ユニリーバ社(Unilever)は、氷菓類に新しい原料を入れる許可申請をイギリスの食品基準局(Food Standards Agency)に提出した。その原料とは、北極海に棲むウナギのような魚が産生する蛋白質である。この蛋白質は、凍てつく極地の水から魚を護るために、氷の結晶の成長を妨げる機能があるという。アイスクリーム中の水分が凍らずに、クリームのような食感が得られるわけだ。これを魚から直接取り出すのではなく、この蛋白質を作る遺伝子をイースト菌の中に組み込んで、発酵の過程でそれを産生させるようにしたという。この蛋白質-氷組織化蛋白質(ice-structuring protein)--は、アメリカの食品医薬品局(Food and Drug Administration)の認可もすでに下りていて、一部の製品に使われているという。

 果物や野菜、動物の肉をアイスクリーム中に錬りこむ方法と、魚由来の蛋白質を混ぜる方法では、背後にある考え方が少し違うような気がする。前者は、新奇の香りと味を楽しむためだろうが、後者はクリーミーさと脂肪分削減の両立が目的だ。脂肪分を摂り過ぎないためには、アイスクリームを食べ過ぎなければいいのだ。そういう当たり前の論理は、メーカーの利益にならない。メーカーとしては、どんどん食べてほしい。だから、“ローファット”とか“ヘルシー”などの種類を作り、「食べ過ぎても太らない」という印象を作り出して数を売ろうとする。何となく、“ライト”とか“マイルド”などの言葉をつけたタバコと似ているではないか。
 
 アイスクリームはすでに過剰生産なのだろう。それを、さらに売るための新手の方法だ。そういう点が、いかにも欲望満足を優先させる現代の価値観を表していると思う。そんな目的のために、遺伝子組み換え技術が使われていることも憶えておこう。
 
 谷口 雅宣

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