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2006年7月30日

アマゾンは雨を作っている

 2日前の本欄で、関東地方の梅雨明けは8月になるかもしれないと書いたら、気象庁が今日、あっけなく梅雨明けを宣言してしまった。それでも、平年より10日遅れである。昨日の『日本経済新聞』が夕刊の1面で「異常気象 世界で猛威」と書いていたが、アメリカやブラジルだけでなく、ヨーロッパや中国大陸でも熱波や台風の襲来で被害が多く出ているという。7月19日にはロンドン近郊で36.5℃という95年ぶりの暑さを記録し、ドイツの7月の平均気温は平年を約5℃上回る過去最高となる見通しで、フランスでも7月の全国の平均気温が平年を3~4℃上回る暑さという。
 
 ご存じの読者も多いと思うが、日本でお馴染みのヨーロッパの都市は、緯度で比べると北海道以北に位置しているものが多いのだ。例を挙げると、ベルリン(北緯52.5度)、ロッテルダム(52度)、ロンドン(北緯51.5度)、パリ(49度)、ミュンヘン(48度)、ローマ(42度)、バルセロナ(41.5度)、マドリード(40.5度)である。日本の各地の緯度を挙げると、稚内(46度)、網走(44度)、札幌(43度)、襟裳岬(42度)、八幡平(40度)である。ロンドンの緯度は、南北樺太を分ける中間線(北緯50度)より北である。ここが36℃を超える気温になったのだから、異常ぶりがよく分かると思う。

 28日の本欄で、南米のイグアスの滝が渇水に見舞われていることを書いた。同日付の『ヘラルド・トリビューン』紙には、アマゾンの自然の専門家であるトーマス・ラブジョーイ氏(Thomas E. Lovejoy)が、「森林が雨をつくる」メカニズムに関して興味ある話を書いていた。このメカニズムは25年前から分かっていたそうだが、それによると、南米大陸の西側に聳えるアンデス山脈に、大西洋から運ばれてきた湿った風が当るとアマゾンに雨が降るという。その雨は、熱帯雨林を構成する何層もの植物群の葉に当って、その大半は地面に浸み込む前に大気中に蒸発する。その水分を含んだ空気は、さらに西へ運ばれるにつれて雲となって濃縮され、そして再び雨となって地上に落ちるのだという。このメカニズムが、アマゾンを除くブラジルに降る雨の40%と、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチンに降る雨の相当の割合を作るらしい。
 
 イグアスの滝は、ブラジル南部の、パラグアイとアルゼンチンとの国境を接する場所にある。そこへ流れ込む川は、上記のメカニズムによって降る雨が流れているから、この滝の水もアマゾンの熱帯雨林の恩恵を受けていることになる。イグアスとアマゾンは2千キロ以上も離れているのに--である。アマゾンの森林伐採は、こうして広大な地域に渇水状態をもたらすことになる。ブラジルが把握している数字では、アマゾンの森林の17~18%はすでに伐採され、さらに毎年2万平方キロが消えている。これにアマゾンを共有する他の国々(コロンビア、ペルー、ボリビア)での開発行為を含めると、アマゾンの森林伐採の勢いは深刻だ。だからラブジョーイ氏は、上記の2重の降雨メカニズムが働かなくなる時期が迫っている、と警鐘を鳴らしている。今年のイグアスの滝の渇水が、その前兆でなければ幸いだ。
 
谷口 雅宣

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