« 肉食を考える | トップページ | アメリカ西部は燃えている »

2006年7月 6日

映画『ホワイト・プラネット』

 北極の温暖化の様子を描いたドキュメンタリー映画『ホワイト・プラネット』(The White Planet)を見た。題名から思い出したのは、温暖化によって氷河期が襲来するというストーリーのSF映画だったが、こちらはもっと地味な話だ。しかしSFの特撮ではなく本物の映像なので、冬の北海道も見たことがない私にとっては、極寒の広大な“白い世界”に棲息する数多の生物たちの姿がとても感動的だった。地球温暖化の現状を知るためには、必見の映画の1つである。私は、同じ主題を扱ったドキュメンタリーをいくつかテレビで見たことがあるが、映画館の大スクリーンに広がる映像の力とは、とても比較できるものではない。

 フランスとカナダの共同制作で、ゆっくりとしたフランス語のナレーションが流れる。原題は「La Planete Blanche」だ。監督は、フランスで自然科学番組を制作してきたティエリー・ラゴベール(Thierry Ragobert)とティエリー・ピアンタニダ(Thierry Piantanida)の2人組。これまで何度も北極の調査撮影に参加してきたというだけあって、自分の庭を撮影しているかのような自然さで、北極の大自然が眼前に展開されるのには圧倒される。大平原を走るカリブーの大群を追う空撮あり、クジラに密着する水中撮影あり、生まれてまもない子に乳を与えるホッキョクグマ(シロクマ)の母を大きく描く雪中撮影あり、海中プランクトンの一種であるクリオネの人間そっくりのダンスあり……一体どうやって動物にこれほど近づけるのか、驚かされるばかりである。そういう被写体について、ピアニタンダ監督は「どの動物も、映画の主役になれるような特異性や絶対的な独創性を持っています」と誉めるが、本当にその通りだと思った。

 私は今年の5月初め、生長の家の全国大会で『TIME』誌4月3日号の表紙の写真--氷の溶けかけた海面を心配そうに眺めるシロクマの写真--を参加者に見せ、シロクマが最近、溺死しているのが発見されていることを話した。この写真については4月2日付の本欄でも触れたが、溺死の話は、今年5月号の『Vanity Fair』誌に元アメリカ副大統領のアル・ゴール氏が書いていたことだ。しかし、人に話しながら、自分では溺死の原因がよく分かっていなかった。ところがこの映画を見て、それがよく分かったと思った。

 シロクマは、氷の海を泳ぐことに何の苦労もない。彼らの分厚い毛皮は、マイナス50度の極寒の中でも充分な暖かさを保つから、氷水(せいぜいマイナス数度)は“温水”といったところか。映画の中でも、上手なイヌカキ(クマカキ?)で泳いでいた。それより問題なのは、氷上での餌探しだ。ヒグマなど温帯に棲むクマはサケなどをよく獲るが、シロクマが魚を獲るシーンはなかった。それより、氷上で休んでいるアザラシを餌にしているらしい。アザラシは海中では猛スピードで泳げるが、氷上では実にたどたどしく這う。それを追いかけて捕獲する。ただし、アザラシも事情をよく知っているから、氷上で休むときも、すぐに逃げられるように水の近くにいる。また、北極の氷原はガチガチに凍ってはおらず、数十センチの厚さに雪が積もったような感じで、サクサクとしている。そのサクサクの中にできた浅い穴に隠れているアザラシもいる。シロクマは、そういうアザラシを見つけると最初は忍び寄り、最後には猛然とダッシュして追撃し、氷原の中に頭を突っ込んで、見えないアザラシに噛みつくのである。そして、失敗することも多いそうだ。
 
 これが彼らの猟の方法だとすると、海上の氷が溶けだすことは重大な結果に結びつく。それは、我々がドロンコの沼や田んぼに落ちた時を想像するといい。走るどころか、前方にきちんと歩くことさえ至難の業だ。そんな中ではアザラシなど捕獲できないから、シロクマは食事不足で衰弱する。さらに、温暖化は海上の氷と氷の間の距離が広げていくから、別の氷原を求めて海を泳ぐシロクマにとっては、それは決死の遠泳になるのだろう。気候の微妙な変化は、厳しい自然界でギリギリに生きている生物たちにとっては、致命的な結果をもたらす。こうして最近、ホッキョクグマは絶滅危惧種に指定されたのである。

 ところで、この映画で北極のことをなぜ「プラネット(惑星)」と呼ぶかというと、そこが人間のよく知っている地球とは別の、きわめてユニークな(そして美しい)生態系を保ってきた場所だかららしい。そういう稀有の自然が今音をたてて破壊されつつある、と感じた。
 
谷口 雅宣

|

« 肉食を考える | トップページ | アメリカ西部は燃えている »

コメント

副総裁・谷口雅宣先生
合掌、ありがとうございます。
 副総裁先生、私も先日六本木ヒルズの映画館で「ホワイトプラネット」を観てまいりました。先生の全国大会での北極のお話が心に残っていて、この映画の公開を楽しみにしていたのです。
 映画を観て、北極にはこんなに多種多様な生物が生きているんだ!と、ビックリし、極寒の雪と氷しかない不毛なイメージが一新されてしましました。同時に、厳しい自然の中でたくましく生きる生命の姿に感動し、この尊い生命を、北極を守っていかなくてはいけないと、強く思いました。今、こうしている間も北極ではあのクマの親子のように、新しい生命が誕生し、溶けかかった氷の中でもたくましく生きているのだと思うと、今ここで地球のためにできることを実践していきたいと強く思いました。
 以前同じような映画の「ディープ・ブルー」、「皇帝ペンギン」を観た時も同様に感じましたが、地球を大切にする気持ちが多くの人に広がるように、このような映画はたくさんの人に観てもらいたいですね。
 青年会事務課でもそれぞれで観に行こうという話が広がっています。 
            青年会事務課  渡邉 真紀 再拝

投稿: 渡邉真紀 | 2006年7月11日 13:35

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 映画『ホワイト・プラネット』:

« 肉食を考える | トップページ | アメリカ西部は燃えている »