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2006年7月25日

植林の考え方

 ノーベル平和賞受賞者でケニアの環境副大臣、ワンガリー・マータイさんと、植物生態学者の宮脇昭氏の対談を読んだ。昨年の3月中旬に『毎日新聞』に載ったものだが、私は読む機会がなかった。題して「緑の対談-- 木を植えよう、今すぐ」。その中で、ケニアに3千万本の植林をしてきたマータイさんが、宮脇氏の植林の考え方と一致した点が印象的だった。

 宮脇氏と、彼の推進する「潜在自然植生」の考え方については3月11日の本欄で紹介したので、詳しくはそちらを参照されたい。ごく簡単に言えば、世界中の森は今、ほとんどが人工の森で、その土地の気候や土壌、動植物との関係を軽視して造られてきたから、災害に弱く、砂漠化の原因にもなっている。しかし、もともとその土地で長い歳月をかけて進化・発達してきた木々を植えれば、緑の成長は早まり、根もよく張って砂漠化を防ぎ、人間や動物にもより大きな恩恵を与える--こういう考え方である。

 マータイさんも、女性を組織して植樹運動を始めたころは、女性が好む樹種--例えばユーカリのように、燃料の薪や家畜を飼う際のフェンスの材料になり、あるいは土壌の流出を防ぎ、木蔭を提供するような樹種--を選んで植林をしたが、こういう木は外来種が多く、地域に生息していた他の野生の動植物との共存ができずに、生物多様性が維持できなかったという。マータイさんはだから、それ以来、「外来種を植えることには強く反対し、ずっとその土地に根づいている原種の重要性を、ことあるごとに市民に伝え、啓発してきました」と言っている。この仕事は、まだ途中なのだそうだ。それは、宗主国のイギリスが、かつて国有林にユーカリやマツなどの外来種を植えたため、今でも森林破壊が急速に進んでいるからだ。宮脇氏とマータイさんが最初に会ったのはこの時で、それ以来、2人は協力して植林活動を続けているそうだ。

 宮脇氏はこの対談の中で、「地球に住む60億の人たちが1人10本の苗木を植えたら、どうなりますか。荒れ地や砂漠は、多様な防災環境保全林に変わり、地球規模の温暖化にも十分対応できると思います」と言っている。なかなか楽観的で勇気づけられる。しかし、植樹の効果が現われるのは20~30年先だろうから、それまでに温暖化が不可逆的(後もどりできないほど)に進行しなければ、との条件が必要だ。

 7月7日の本欄で、アメリカ西部が温暖化の影響で山火事の頻発に悩まされている話を書いたが、その後はかの地は“猛暑”に襲われている。今日の『日本経済新聞』夕刊によると、カリフォルニア州の電力管理委員会は、エアコンなどの電力需要の急増に対処するため、非常警報の「ステージ2」というのを発令し、州内の一部の企業への電力供給を制限し始めたという。同州の内陸部ではこのところ連日、40℃前後の記録的な猛暑が続いているため、送電施設の変圧器が耐えられず、23日にはロサンゼルス地区の17万5千世帯への電力供給が一時止まったそうだ。今日放映されたABCニュースでは、同州の首都サクラメント市は38.9℃、中部のフレズノ市は43.3℃、南部のサンタクラリタ市は42.8℃になったという。こういう38℃を超える猛暑が、もう19日間も続いているというのは尋常のことではない。

 植物にとって、こんな猛暑がいいはずがない。特に同州はワインの産地だからブドウ栽培が盛んで、北部のナパ・バレーには約200のワイン醸造所があるという。7月15日付の『New Scientist』誌によると、最近、プルドゥー大学の研究者が発表した論文は、今世紀末までに、アメリカのブドウ生産地の80%は高温のためにブドウ栽培ができなくなると予測している。ブドウの木は、気温が35℃を超えると衰弱してしまうからだ。猛暑続きで、今年のカリフォルニア・ワインの出来がどうなるか分からないが、地球温暖化の被害は確実に広がりつつあると考えるべきだろう。
 
谷口 雅宣

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コメント

谷口 雅宣 先生:

サンタクララ市とサンホゼ市の境にすんでいますが、昨日までは熱波が酷かったです。サンフランシスコなどは涼しいく、華氏90度(32.2度)を超えることは殆どないようです。人の話によると過去二十数年の内、一回あったようです(真偽は不明)。SF市の場合、ある程度気温が上がると、空気中のスモッグを減らそうと市内への車の乗り入れを押さえるため、Bay Area Air Quality Management District (BAAQMD)が「スペア・ザ・エア」デーというのをもうけています。この日に指定されると、公共機関の乗り物が無料になりますが、先週の金曜日で6回目となり、予算オーバーで無料ではなくなりました。本日(水曜日)は少しましになりました。

投稿: Mario Kawakami | 2006年7月27日 02:38

川上さん、

 SFは避暑地ですね!
 皆、Bay area へ避難したくなるのでは……?
 ブドウ園は大丈夫ですか?

投稿: 谷口 | 2006年7月28日 14:29

谷口 雅宣 先生:

>SFは避暑地ですね!
SFは月に3回ほど行きますが、一般家庭ではエアコンは設備されていません。その必要がないから。

>ブドウ園は大丈夫ですか?
ニュースではグレープがレーズンになっていたり、落ちたりしているということです。ブドウだけじゃなく他の農作物にも影響を与えています。今年は四月まで長雨が続き、作物が植えれなかったので、出足が悪かった上、この熱波ですから、一部の農家では大変そうです。会員でサリナスで農家をやっている方も、作付けしてもすぐに雨で枯れてしまったと春には嘆いていました。来週、この熱波がどう影響した聞いてみます。

投稿: Mario | 2006年7月29日 03:53

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» 太陽の恵み、電力とワイン [ハイ・エコ・ポン]
 カリフォルニア州のワイナリーに太陽光発電システム導入の動きが広がっている、というニュースがNIKKEI NETの7月21日に載っていました。ナパバレーのブイ・サトゥイ(V.Sattui)ワイナリーが太陽電池パネルを屋根に設置して、工場の電力に使おうというものです。「約4300枚の太陽電池パネルをワインの瓶詰工場と赤ワイン貯蔵庫の屋根に敷き詰める。発電能力は901kW。瓶詰工場で必要とする電力の約80%を供... [続きを読む]

受信: 2006年7月27日 21:57

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