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2006年6月26日

山林からアルコールができる

 6月12日13日の本欄で日米のバイオエタノールの生産計画について触れ、サトウキビから作る日本の方式に「65点」をつける一方、トウモロコシのほか木屑や雑草を使うアメリカの方式を「有望」と持ち上げた。日本の計画が消極的なのに対し、アメリカの積極性が対照的だったからだ。しかし、日米に共通の問題点がある。それは「農産物から燃料を作る」という考え方だ。同じ農地を人間と機械(自動車)が競争して奪い合う方式は、有限な資源の有効活用とは言えず、貧富の差の大きい社会では“搾取”の問題も生じるだろう。「車や機械を動かすために食糧を使う」ことになるからだ。
 
 6月24日の『朝日新聞』で発言している農林中金総合研究所の阮蔚(ルアンウェイ)主任研究員によると、アメリカでは2005穀物年度に全国生産量の14%に当る4060万トンのトウモロコシが、エタノール生産のために使われたという。同国で稼働中の101箇所のエタノール工場に建設中の33箇所を加えると、生産能力は69億ガロンに達し、これに必要なトウモロコシは全国生産量の23%、6300万トンにもなる。これだけの量の食糧を人から車に回すことには、倫理的な問題が生じる場合もあるだろう。因みに同研究員によると、日本は米国産トウモロコシの最大の輸入国で、国内需要の94%、年間約1600万トンをアメリカに頼っている。アメリカのエタノール生産が増えれば、日本へのトウモロコシ輸出が減るという関係が充分成り立つのである。
 
 この「食糧との競合」の問題を解決するためには、アメリカが木屑や雑草から燃料を作ろうとしているように、農地以外で育つ植物から燃料を作るのがいい。また、トウモロコシやサトウキビでも、食糧にしない部分から燃料を生産する方法が有望である。実際、アメリカのデュポンと英国BPは、共同でサトウキビの茎からバイオ燃料を開発・製造する方針を発表しており(6月21日『日経』夕刊)、シェルは、カナダのイノゲン社の技術を使い、トウモロコシの茎などを燃料に転換して、自社向けに燃料を調達する計画があるという(6月24日同紙)。
 
 日本のバイオ燃料は、今のところ沖縄産のサトウキビだけというのでは、何とも寂しい。日本は国土の大部分が山地である点を考慮すると、農産物から燃料を採るよりは、森林そのものを維持しながらバイオ燃料として利用する方法が有望ではないだろうか。それに目をつけて、昨年6月、三井造船は木屑からエタノールを製造する実験工場をすでに稼動させた。場所は、国内有数の林産資源生産地として知られる岡山県北部(真庭地区)で、真庭市の未利用林産資源を原料としてエタノールを生産している。6月25日の『日経』によると、この工場ではヒノキの木屑を硫酸で処理したものを、酵素で分解し、それを発酵させてアルコールに変えるという。乾燥時の重量で1トンの木屑が、4日間で230キロのエタノールに変わるので、それをガソリンに混ぜて自動車を走らせているらしい。

 同社のプレスリリース(5月9日)によると、木材から燃料用エタノールを製造するには、①粉砕、②前処理、③発酵、④回収の4工程が必要で、①で木材を粉砕して選別し、②で木材に含まれるセルロースなどを希硫酸で分解し、さらに酵素で分解して糖分に変え、③で糖分を発酵させ、④で蒸留等により高濃度エタノールを回収する。同社では、木質材料の前処理・糖化条件と発酵条件の最適化に向けて、現在検証を進めているという。
 
 5月13日の本欄では、イネの籾殻からバイオエタノールを製造する技術を紹介したが、このような技術がどんどん開発され、農地や山林からエタノールが生産できるようになれば、林業の再生、地方の復権は決して夢ではないし、それを行うことが温暖化防止、エネルギー自給、食糧安保をもにらんだ“一石三鳥”の中長期的国家戦略になると思うのだが……。
 
谷口 雅宣

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