« アインシュタインの“神話” | トップページ | 中国、信仰者の声に動く? »

2006年6月 9日

石油高騰に光明を見る

 本欄は昨年来、原油高騰に注目して善悪両面の動きを追ってきた。このうち、これまで触れた“善い”効果を概観すると--

 昨年9月7日の本欄で、「地球温暖化の進行を防止する立場から言えば、石油高騰によって消費が減少し、温室効果ガスの排出量が減少することは“望ましい”ともいえる」と書いた。この「消費減少」動きは、これ以後、個人のレベルでは着実に進行し、それが産業界へもじりじりと影響を与えている。例えば、石油高騰によって先進国の自動車産業の構造が変化しつつある。主力車のガソリン燃費の良し悪しによって、自動車会社の販売実績に大きな違いが生じてきた。燃費の良い日本車はよく売れ、燃費の悪い米国製SUV等の売り上げはガタ落ちしている(9月15日)。また、東南アジアの国々の中には、補助金によって石油の値段を下げる保護政策を撤廃する動きが生じ、これによってガソリン等の石油製品の消費が減り、環境破壊の進行が鈍化している(11月26日)。

 日本国内では「レジ袋の有料化」が真面目に検討され、一部で実施され始めた。また、石油系のプラスチックの値上がりにより、土中で腐る生分解性のプラスチックを原料とした食品用シートや食器などが価格競争力をもってきており、アメリカでは大手食品加工会社や大規模販売店でも生分解プラスチック製品を採用する動きが広がっている(11月26日)。さらに、ブッシュ大統領は一般教書演説の中で「アメリカ人は石油中毒」と発言、中東石油への依存度を下げる方針を発表した(2月3日)。同大統領の支持基盤である“キリスト教右派”と呼ばれる人々の間にも「環境保護」を真面目に考え、積極的に実行する人々が増えてきた。

 さらに、最近の動きを拾ってみよう--
 
 原油高騰は当然、液化石油ガス(LPG)の値上がりにつながる。これを主燃料としているのが、日本中を走るタクシーだ。6月8日の『日本経済新聞』によると、このおかげでトヨタ自動車は「アイドリングストップ車」という省エネ車を開発したが、東京の大手タクシー「日本交通」では、年内にこの車を400台導入するという。これは、ギアをニュートラルに入れるとエンジンが自動停止するので、燃料の節約になる。タクシー向けのLPGの価格は前年同期比で26%上がっており、現在は1リットル68円程度という。アイドリングストップ車は、都会ではバスなどによく見かけるようになったが、信号待ち時の静かさはうれしい。それだけでなく、コスト削減とCO2の排出削減にもなる。私が首相だったら、この型の自動車普及に向けて特別減税措置を導入したいほどだ。

 同じ『日経』は、道路舗装に使うアスファルトの値上がりについても書いている。それによると、4~6月期のアスファルトの価格は前期(1~3月)比でトン当たり4000円ほど値上がりし、1トン5万4000円前後となった。この価格は1981年以来、25年ぶりの高値だ。道路舗装に使う従来のアスファルト合材は水分を吸収しないため、都会での地下水の枯渇や大雨時に道路の冠水を引き起こしている。アスファルトの値上げの“善い面”は、そういう従来型に対して、水分を土に透す環境配慮型の舗装材の価格競争力が増すことだ。
 
 さて、ブッシュ大統領の政策変更について少し触れたが、アメリカという国は、方針転換がいったん決まると、社会全体がその方向に大きく動くのだろうか? そんな印象を抱かせる記事が今日(6月9日)の『日経』に載っている。それは、三菱重工が北米の風力発電用として、大型の風力発電設備を443基一括受注したという記事だ。総出力は44万3千キロワットで、受注額は300億円前後。長崎市の長崎造船所で製造し、ニューメキシコ州やテキサス州の風を孕んで発電するという。

 5月22日の本欄で、アメリカの環境活動家、レスター・ブラウン氏の講演会について書いたが、その時、ブラウン氏はアメリカの風力発電事業について触れ、アメリカの主力メーカーであるGE(ジェネラル・エレクトリック社)への注文は、2007年分まですべて埋まっていると言っていた。だから、アメリカ向けの風力発電設備が日本メーカーにも回ってきているのだろう。こういう動きは、風力発電事業が税制面で優遇されていることも大きいが、日本の場合、優遇措置は充分とは言えないと思う。
 
谷口 雅宣

|

« アインシュタインの“神話” | トップページ | 中国、信仰者の声に動く? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 石油高騰に光明を見る:

» GM閉鎖工場を風力発電工場に? [ハイ・エコ・ポン]
 レスター・ブラウンの講演の中で、面白い提言がありました。それは今、アメリカがガソリンの高騰で大型車中心のGMなどが業績不振に陥り、工場が次々と閉鎖に追い込まれていることをとらえ、その閉鎖される工場で風力発電装置を造ればよい、というアイデアを披瀝したのです。このアイデアが実現されれば、将来GMは世界最大の風力発電装置の製造メーカーになるかも知れませんね。近々日本の自動車メーカーであるホンダが... [続きを読む]

受信: 2006年6月10日 23:02

« アインシュタインの“神話” | トップページ | 中国、信仰者の声に動く? »