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2006年5月13日

日本の環境努力

 5月8日の本欄で、温室効果ガスの排出権取引に、日本の大手商社などが中国を相手に「すでに動いている」などと書いたが、実情はそんな初歩的な段階ではなく、日本は昨年、この分野で「世界一の買い手」になったらしい。13日の『日本経済新聞』がそう報じている。ドイツで開かれている排出権見本市「カーボン・エキスポ」で、世界銀行が発表した数字によるもので、日本は2005年1月から今年の3月までに成立した「クリーン開発メカニズム」(CDM)によるプロジェクトで生まれた排出枠全体の38%を購入したという。

 世界銀行による推計では、この期間にCDMで生み出された排出枠の総量は4億5350万トンで、購入国は日本のほかイギリスが15%、イタリア11%、オランダが8%だった。売り手は、中国が最大で全体の66%で、ブラジルが10%だった。8日の本欄で挙げた例のように、日本企業が中国の開発に関わりながら排出権を買うという動きが、最近の大きな流れになっているようだ。ということは、そこでも触れた本制度の“欠陥”がこれから深刻な問題を起こす可能性があることを示している。つまり、日本の企業に排出権を売った中国の企業が、その“利益”を使ってさらに温室効果ガスを削減するのではなく、増加させる方向に動けば、日本企業のこの種の努力は、燃え続ける中国経済に却って“油”を注ぐ結果になるということだ。

 京都議定書では、中国は温室効果ガスの排出削減をする義務がない。早急に「京都後」の国際的枠組みを設け、その中で、経済成長盛んな中国、インドなどの排出枠の上限を定める必要があると思う。

 森林の大規模な伐採などで砂漠化が進む中国の現状を象徴するような記事が、今日(13日)の『産経新聞』に載っている。甘粛省敦煌にある観光名所の三日月型の湖、月牙泉(げつかせん)が、人口増加や砂による侵食で消滅の危機に瀕しているというのだ。水深が1メートルまでになり、面積は半分以下になった。記事を引用すると、「もともと、水枯れが懸念されていたが、ここ5年ほど砂漠化が加速し、とくに今年は降水量が少ないため、中国メディアでも盛んに取り上げられるようになった。報道によれば、枯渇を防ごうと河水を補ったために湖はすっかり濁り、七星草も絶滅し、周辺の紅柳の林も枯れているという」。「七星草」とは、長寿をもたらすという希少種の植物で、湖の周囲に豊富に生えていたものだ。

「自分の尾を食べるヘビ」のイメージが頭に浮かぶ。人間はこのヘビのように、自分の欲を満たすことを最大の目標として動いているから、自分の消費しているものが自分の“体”であることに気がつかない。ここで“体”という意味は、「自分の生存や喜びを支えてくれている大切なもの」という意味である。それを自ら食いつぶしながら、生存や喜びを得ようとしている。この悪循環を断ち切るためには、「人間は肉体ではない」「人間の本当の喜びは、肉体的快楽や物質的繁栄にはない」という宗教的な自覚が広まることが何よりも大切だと思う。

 最後に、よいニュースを少し。これも今日の『日経』で読んだ記事だが、日本は生物化学の面でも、環境との調和に役立つ技術を開発しつつあるようだ。帝国石油は中外テクノスと共同で、有機物から水素を作る微生物と、水素と二酸化炭素からメタンガスを作る微生物を採取することに成功し、実証実験を行っているという。水素はもちろん、無公害の燃料電池の燃料である。メタンガスは強力な温室効果ガスだが、天然ガスの成分でもある。また、東大生産技術研究所などのグループは、イネの籾殻からバイオエタノールを造る技術を開発したらしい。こちらはサトウキビやトウモロコシからの製造をブラジルやアメリカがすでにやっているが、「籾殻」という“廃棄物”を代替燃料にするという発想は、米を愛するアジア諸国すべてから歓迎されるだろう。これはまさに「廃棄物など存在しない」という実例の1つと言える。

谷口 雅宣
 

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