« 中国と宗教 | トップページ | 森を正しく評価する »

2006年5月 8日

排出権取引はうまく機能する?

 NHKスペシャルで取り上げられていた「沈みつつある国・ツバル」のことに本欄(5月3日)で触れたら、同じ番組を見た山中優氏が、自身のブログに書いた「排出権取引は地球環境を救えるか?」という一文を紹介してくださった。なかなかの力作である。ところで、この番組には「排出権取引」を活用して巨額の金を動かしているブローカーが登場する。この制度は、京都議定書で初めて認められたものだが、そのブローカーは、こともあろうに同議定書を否定したアメリカのニューヨークを本拠地にして大いに稼いでいる。イラクでテロが起こると原油の値段が上がり、排出権の値段も上がるのである。それを、京都議定書に参加しているヨーロッパの企業などに売ることで、アメリカの企業が儲かる。そんな中で、ツバルの洪水は深刻さを増していく--得をするのは先進国だけ、という構図が見えてくる。
 
 この番組では、日本の三井物産が中国・重慶の炭鉱から排出権を買い取る商談の様子が描かれていた。「排出権」とは温室効果ガスの排出権のことだ。京都議定書で認められた制度のもとでは、排出削減を義務づけられていない国(中国を含む途上国等)の中で、ある企業や団体が排出削減を行えば、その削減分の温室効果ガスを「排出権」として削減義務のある国に売ることができる。この権利を買った国は、海外で排出削減を行ったことになるから、その削減分を自国での排出削減の値に組み入れることができる。これを「クリーン開発メカニズム」と呼ぶらしい。
 
 だから三井物産は、重慶の炭鉱から排出されるメタンガス(二酸化炭素の数倍の温室効果がある)の排出を防ぐことで、排出が防止された分を二酸化炭素に換算して排出権として買い取る。そして、この権利を日本などの排出削減義務をもつ国に売ることで、利益が得られる。また、ロシアやドイツなど排出削減義務をクリアーした国は、余った排出枠を市場で売ってお金に換えることができる。また、国内の努力で排出削減義務を果たせそうもない(日本のような)国は、排出権市場でそれを買うことで、削減目標を達成したことになる。こういう取引を「排出権取引」と呼ぶのである。
 
 三井物産と似たようなケースは、ほかでもすでに動いている。4月17日の『産経新聞』によると、三菱商事と新日本製鉄は、中国・山東省のフロン製造工場から出る副産物のガスを分解処理することで、2012年までにCO2換算で5500万トンの排出権を得る計画だ。また、住友商事と中国電力も黒龍江省の炭鉱で発生するメタンガスの回収を行って排出権を得る計画という。また、3月8日付の『朝日新聞』によると、ジェトロ(日本貿易振興機構)の会員企業を対象にした調査(昨年11~12月)では、回答した960社のうち14%が、これらの“京都メカニズム”に取り組んでいるか、その予定があると答えている。
 
 ところで山中氏も指摘していることだが、この制度にはよい面もあるが、欠陥もあるようだ。というのは、排出削減義務のない国では、メタンやCO2をいくら出してもいいのだから、排出権を売った収入でさらに石炭を燃やしたり、炭鉱を掘り進んでメタンを出しても誰からも文句を言えない。そして、慢性的なエネルギー不足に悩む中国では、まさにその通りのことが行われているらしい。そうなると、途上国は排出権を売れば売るほど収入が増えるのはいいとしても、その収入が開発行為に油を注ぐことになり結局、温室効果ガスの排出増加につながる可能性が出てくるのである。「京都後」の検討課題なのだろうが、それまでに「ツバルの消滅」など、深刻な事態に至らないことを祈るものである。

谷口 雅宣

|

« 中国と宗教 | トップページ | 森を正しく評価する »

コメント

谷口 雅宣 先生

日本自然エネルギー株式会社が個人向けのグリーン電力証書を販売しているそうです。

http://www.natural-e.co.jp/index.html

東京では運転をしないのでハイブリッド車は買えませんし、太陽光パネルを設置できるような一軒家に住んでいない私のような生活者でも、小さな一歩ですが少しは役に立てるのかもと思い購入してみました。欧米諸国ではグリーン電力証書に排出権との互換性を認める方向で議論が進められているそうです。

メイ 利子 拝

投稿: メイ 利子 | 2006年5月10日 20:06

谷口雅宣 先生、

私の一文について、先生のブログの本文で取り上げて下さり、誠にありがとうございました。光栄です!


メイ利子 様、

「個人向けグリーン電力証書」--大変興味深いです! 私も早速ご紹介のHPにアクセスしてみました。ですが、まだ完全に理解できたという自信がありません…。

そこで、すでに実際に購入されたというメイ利子様に3つの質問をさせてください。

Q1.家庭での年間平均使用電力2000kWhが¥10,500、その半分の1000kWhが¥6,300とのことですが、メイ利子様が購入されたのはどちらでしたか?

Q2.またそれは、普段の電気代が無料になったのではなくて、それとはまた別に購入されたものでしたか?

Q3.この「個人向けグリーン電力証書」の仕組みを理解するのに少し時間がかかりましたが、以下の《 》内に書いたような理解で正しいでしょうか?:

《個人向けグリーン電力証書を購入したからといって、その代わりに電力会社に対する電気代が無料にあるわけではない》
《むしろこれは、現段階ではまだグリーン電力コストが(化石燃料による)普通の発電コストよりも高いために、そのまだ相対的に高いグリーン電力コストを賄うために個人でも手軽にできる“投資”と言えるものである》--この理解で正しいでしょうか?

山中 拝

投稿: 山中 | 2006年5月10日 22:30

メイさん、

 興味ある情報、ありがとうございました!

投稿: 谷口 | 2006年5月11日 21:50

山中 優 様

コメントありがとうございました。

Q1.家庭での年間平均使用電力2000kWhが¥10,500、その半分の1000kWhが¥6,300とのことですが、メイ利子様が購入されたのはどちらでしたか?

とりあえず、2000kWh一口です。

Q2.またそれは、普段の電気代が無料になったのではなくて、それとはまた別に購入されたものでしたか?

はい。電気代は払います。

Q3.この「個人向けグリーン電力証書」の仕組みを理解するのに少し時間がかかりましたが、以下の《 》内に書いたような理解で正しいでしょうか?:

《個人向けグリーン電力証書を購入したからといって、その代わりに電力会社に対する電気代が無料にあるわけではない》
《むしろこれは、現段階ではまだグリーン電力コストが(化石燃料による)普通の発電コストよりも高いために、そのまだ相対的に高いグリーン電力コストを賄うために個人でも手軽にできる“投資”と言えるものである》--この理解で正しいでしょうか?

それでいいと思います。でも、私も専門家ではないので詳しくはこちらをご参照下さい。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/00101201-j.html

http://eco.goo.ne.jp/word/energy/S00165_kaisetsu.html

グリーン電力の導入は、欧米では官民あげての取り組みとして進んでいるそうです。日本はまだまだこれからで、この個人向け「グリーン電力証書」の発行は、消費者が自主的に環境にやさしいエネルギーを選んで使える社会環境を整えて、日本における自然エネルギーの普及をめざした取り組みの一つだと理解しています。「グリーン電力募金」は太陽光や風力など自然エネルギーの発電設備に助成金として配分する仕組みですが、「グリーン電力証書」は直接グリーン電力の供給を受けていなくても、証書を購入することでグリーン電力を購入したとみなされます。

でも日本エネルギー株式会社のHP(http://www.natural-e.co.jp/index.html)によれば、課題として現時点では地方自治体や国の行政政策上で明確に位置づけられていないため、(1)グリーン購入法の特定調達品目としての指定、(2)省エネルギー法上の省エネルギーとしての取り扱いを行政にたいして働きかけていくそうです。

私のような都会生活者はエネルギーを一方的に消費するばかりで、かといって共同住宅に住んでいるため太陽光パネルの設置や多額の寄附など大がかりな貢献は難しかったのですが、グリーン電力証書の購入はそんな私にピッタリでした。このようなシステムが普及すれば人口が集中している都会生活者の意識も変わって、ささやかな「恩返し」として日本の自然エネルギー導入への取り組みが加速するといいと思います。

メイ 利子

投稿: メイ 利子 | 2006年5月12日 13:49

メイ利子様

ご多用の中、詳しいお返事をいただき、誠にありがとうございました! 私の場合も、いますぐ太陽光パネルを設置できる経済状況ではないので、“個人向けグリーン電力証書”の購入を真剣に家族と一緒に検討してみたいと思います。大変興味深く貴重な情報を本当にありがとうございました。

山中 拝

投稿: 山中 | 2006年5月12日 16:35

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 排出権取引はうまく機能する?:

« 中国と宗教 | トップページ | 森を正しく評価する »