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2006年5月 6日

現代の“象男”の悲劇

 5月1日の生長の家白鳩会全国大会の講話で、「エレファントマン」のことに触れた。象のような顔をした人のことで、1980年に制作された同名の映画で一躍有名になった。ヴィクトリア時代の実在の人物がモデルである。その醜い容姿のために、旅芸人一座の見世物として動物同様にに扱われていたところを、心ある医師に救い出され、やがてその醜悪な容姿の奥に隠された尊い“人間性”が明らかになってくる……そんなストーリーだ。肉体の外観と、内在する本性との対照が印象的で、同大会のテキストに使われた『新版 叡智の断片』(谷口雅春著、日本教文社刊)の中の「膿滴々地」の公案と好一対をなすと感じたため、そのことに触れたのだった。
 
 唐の時代にいた禅僧、玄沙(げんさ)が誤って薬を服したところ、全身が赤く爛(ただ)れてしまったという。それを見た僧が、「いつも先生が説いている堅固法身(けんごほっしん)はどうなってしまったのですか?」と問う。すると玄沙和尚は、「それは膿滴々地(のうてきてきじ)だ」と答える--その意味を考えよ、という公案である。「膿滴々地」とは、体から出る膿(うみ)がポタポタと滴っている様子を指す。そのことと、壊れない堅固身である人間の本性とは、一体どんな関係があるか、という問いかけである。

 ところで、現代にもエレファントマンが生まれたという話を、そのときした。これは、新薬の試験のための実験台を申し出たボランティアの中に、薬の成分に過剰反応をした人が出て、集中治療室に担ぎ込まれるなど大騒ぎになった話だ。今年の3月半ばに、イギリスで実際に起こったことだ。
 
 CNNの3月16日の報道によると、実験台を申し出たボランティアのうち6人が、ロンドンのノースウィック・パーク病院(Northwick Park Hospital)から別の病院の集中治療室に13日の夜に担ぎ込まれ、そのうちの1人は、面会した友人の言葉によると「エレファントマンに似た状態」になっていたという。つまり、頭と首が通常の大きさの3倍に膨れ上がっていたというのである。被害に遭ったのは、ボストンに本社のあるパレクセル・インターナショナル(Parexel International)という医療研究機関が行っていた新薬実験に参加していた人々で、この新薬は慢性的炎症と白血病の治療薬としてドイツのテジェネロ社(TeGenero)が開発した「TGN1412」という抗体だったそうだ。
 
 実験台になる人々は、事前に健康診断をしており、健康体であることは確認されていた。実験する側の医師も、新薬に対して人間の体がこれほど激烈な反応を示すことなど全く予想できなかったという。しかし、現実にこのような不幸なことが起こっているのだから、現代の発達した医学といえども、人間の体の内部のことはまだまだ分かっていないのだと思い知らされる。
 
 本欄では、過去何回か「プラシーボ効果」のことを扱ったが、今回のケースは「心」の問題はあまり関係していないようだ。というのは、この新薬の実験には8人のボランティアが参加し、そのうち2人にプラシーボ(偽薬)が処方されたが、この2人は全く無事だったからだ。実験側の医師の言ったことが本当なら、彼らも新薬の危険性を知らず、ボランティアもそれを予想しなかった(予想したら薬を服用しないはずだから)のだから、心によって激烈な反応が起こったという可能性は考えられない。心の力の関与がなく、薬品の化学的性質のみによって、人間の体が大きく影響されるということは実際にあるのだと思う。

谷口 雅宣

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コメント

田原さん、

 情報、ありがとうございます。
 フーム、「はるか未来の話……」ですかね。
 ところで、社説全文の転載はマズイかもしれないので、
MSNのURLを教えていただけませんか?

投稿: 谷口 | 2006年5月 9日 13:55

合掌 社説をそのまま載せてしまったのはまずかったですね。うかつでした。
MSNのトップページには、この社説に行くタイトルが見あたらなくなってしまいましたが、検索したら見つかりました。
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/
です。

投稿: 田原康邦 | 2006年5月 9日 14:14

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