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2006年5月 9日

森を正しく評価する

 前回書いた排出権取引と似ていて、それを補完するか、あるいはそれに代わると思われる考え方に「炭素クレジット」というのがある。これは『小閑雑感 Part 3』(2003年)や『足元から平和を』(2005年)で触れた「自然資本」の考え方にも則っており、従来の経済学では正しく評価されてこなかった「自然の価値」を認めるという意味で、一歩進んだ考え方だと私は思う。4月15日号の『New Scientist』に、ウイリアム・ローランス(William Laurance)という科学者が分かりやすい解説を書いている。
 
 ごく簡単に言えば、ブラジルやインドネシアのような熱帯雨林を豊富にもつ国に対して、その森林が炭素を固定してくれていることを評価し、炭素1トンに応じたクレジットを与えるという考え方だ。そして、このクレジットを売買できるようにすれば、日本のようにCO2の排出削減を義務づけられている国は、例えばインドネシアの森林の炭素クレジットを買うことで、何もしなければ伐採されたはずの森林を守り、そこから出るはずだった二酸化炭素を大気中に排出させなかったとして、そのクレジットを排出削減量に加算することができる。前回の「クリーン開発メカニズム」では、開発に伴うCO2の排出削減を評価するが、開発せずに放っておく森林の価値は評価されない。炭素クレジットは、その分を補うことができる仕組みだが、反対者も多く京都議定書には含まれなかった。

 この考え方は、実はもう10年も前から国連等で提案されてきたが、クレジットの額などで政府間の合意ができず、“塩漬け”にされてきたという。ところが最近になって、再び話題に上りだした。例えば、昨年12月にカナダのモントリオールで行われた気候変動に関する国際交渉では、パプア・ニューギニアとコスタリカに率いられた雨林国同盟(Coalition for Rainforest Nations)がこれを取り上げ、国際制度として検討するよう要求した。それを受けて今年3月には、ニューヨークで検討会が開かれて、制度化にともなう様々な問題が浮き彫りにされている。
 
 例えば、このクレジットを算定するためには、まず途上国自身が年間の森林伐採の“基準値”(通常の森林伐採の度合い)を定めなければならない。この最も正確な方法は、人口衛星からの映像分析と思われるが、これには専門的ノウハウとコストがかかる。伐採の基準値が決まれば、それを下回るペースで伐採すればクレジットがつく。しかし、この辺から問題が生じてくる。インドネシアやブラジルの広大な熱帯雨林での伐採が、“基準値”を下回っているかいないかを、誰がどうやって確認するのか? また、その逆に“基準値”を上回るような伐採が行われていることが分かった場合、クレジットの返還が義務付けられるのか? 違法な伐採をどう取り締まるのか? また、森林伐採を避けることで、貧しい暮らしに甘んじている農民や地主の手に、先進国が支払うクレジットが本当に渡るのか? もし渡らない場合、そういう人々が困窮してまで国際義務を守る必要が本当にあるのか?……これらの疑問は結局、途上国自身のガバナンスの問題に関わってくるのである。

 雨林国同盟のウェッブサイトを見ると、加盟国の立場がよく分かる。彼らは、熱帯雨林の保護の重要性をよく分かっているが、その森林資源を燃料や材木に利用し、あるいは農地開拓のために伐採せずに放置しておくだけでは、生活することができないのだ。だから、先進国が森林保護に協力しなければ雨林の維持管理はできない。その「協力」のための指標として「炭素クレジット」を国際的に認めてほしいというのだ。サイトの記述によると、1990年代に行った調査では、地上から排出される温室効果ガス全体の20~25%が、森林伐採によって起こるというのだ。何とかならないものかと思う。

谷口 雅宣

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