« 中国で生分解性プラスチック | トップページ | “ネコ中毒”にご注意 »

2006年5月25日

映画『ダ・ヴィンチ・コード』

 ロン・ハワード監督の映画『ダ・ヴィンチ・コード』を見た。ベストセラー小説の原作の方は“荒唐無稽の探偵小説”くらいに思って読んでいなかったが、映画の印象もそれと大差なかった。ただ、映画界だけでなく、宗教界やジャーナリズムを巻き込んだ一種の社会現象になっているので、休日に一見しておくのも悪くないと思った。すでにいろいろな所で評論されているので、あまり多く語ることはないのだろうが、宗教を生業としている者の立場から少し感想を書いてみよう。
 
 まず「宗教はアブナイ」というメッセージがこの映画にも盛り込まれていると感じ、悲しく思った。もっとハッキリ言えば、「宗教は神の名において殺人や異常行動を繰り返してきた」というメッセージである。そして、私が悲しく思った理由は、それが「事実でない」からではなく、一部の宗教においてはその側面があることを認めざるを得ないからだ。しかし、いかにフィクションといっても、現存する世界宗教のことを「世紀の陰謀をつづけてきた」と言わねばならない心理状態は、日本に住む人間としては理解に苦しむものだった。また、その宗教内に実在する組織の名を挙げている点も、私には「やりすぎ」だと感じられた。そうまでしなければならない特別の理由が原作者や監督の側にあるならば、それを知りたいとも思う。
 
 本欄でも何回か取り上げた“モハンマドの風刺漫画事件”のことを思い出すと、イスラム教の文脈でこのような映画を作ることは考えられないのに、キリスト教の場合は何をしてもいいのかと驚かされる。まぁ、西洋社会はそれだけ「表現の自由」を尊重するという点から学ぶべきこともあるのだと思う。また、中世ヨーロッパのキリスト教支配には、それだけ過酷な面があったのかもしれない。さらに推測すれば、西洋社会では、キリスト教に関する知識が広く行き渡っているとともに、伝統的な神学とは異なる聖書学や考古学による“事実検証”も進んでいるから、この程度の“歪曲”はあまり問題にされないのかもしれない。

 こんな推測を私にさせるのは、ローマ・カトリック教会の中心者である法王からは、まだ何のコメントも出ていないからだ。「創作物語に文句をいうのは、大人気ない」ということか。また、文句を言えば言うほど、映画や本が売れるという心配があるからかもしれない。しかし、キリスト教が少数派であるアジア諸国では、そんな余裕はないようである。5月18日の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、9割は仏教徒だというタイでは、キリスト教の諸団体が映画の最後の15分間をカットするように国の検閲機関に申し出たが結局、その要望は断られ、映画の最初と最後に「この映画はフィクションです」という断り書きを入れることになった。またインドでは、カトリックの団体の代表者が映画の上映に反対してムンバイの中心部でハンガーストライキを始めたそうだ。国民の83%がキリスト教徒だというフィリピンでは、マニラの大司教が原作と映画を「キリストの聖性に対する攻撃」だと批判したが、上映禁止は要求しなかった。1700万人以上がクリスチャンである韓国でも、映画は「キリストの神聖性を穢し、事実を歪曲している」との批判があったが、上映禁止にはならなかったようだ。
 
 ところで、上記の記事では、タイのプロテスタント派のキリスト教者が、この映画の筋について「もし、イエス・キリストに妻と子がいたならば、キリスト教は崩壊してしまいます」と言っている。しかし、本当にそうだろうか、と私は思う。キリスト教の伝統的な教義では、確かにイエス独りが「神の子」であるとともに「神」そのものであるから、「神の子」が「普通の人間」との間に子をもうけることなどあり得ないかもしれない。しかし、イエスは人間の実相が皆「神の子」であると説いたと解釈すれば、イエスに妻がいようが子がいようが、また、肉体イエスの遺伝子が現代に引き継がれていようがいまいが、イエスの教えは映画の1本や2本--あるいは、千本や2千本--によって微塵も傷つけられることはないのである。

 イエスとマグダラのマリアの関係については、昔から各方面で注目されている。谷口雅春先生の『新版 ヨハネ伝講義』(1997年、日本教文社刊)の352~353ページには、興味ある記述があるので参照されたい。

谷口 雅宣

|

« 中国で生分解性プラスチック | トップページ | “ネコ中毒”にご注意 »

コメント

合掌
 先生のような映画ファンではない私ですが、たまたまMSNのホームページで「2006年カンヌ国際映画祭特集」と書かれているのを見つけました。
 その「ニュース」に「カンヌレポート」というところがあり、その中には「期待のハリウッド大作『ダ・ヴィンチ・コード』への寒~い反応」という記事もあるのですが、その「DAY3」にはレポーターのDave McCoy(MSN Movies リードエディター)をして、「肉をまた食べたくなるかどうか自信がない」と言わせるような映画が紹介されていました。
「リチャード・リンクレーター監督の『Fast Food Nation』はコンペ作品だ。まだ映画祭は始まったばかりだが、観客の熱狂的な反応をみるかぎり、パルム・ドールの有力候補と言っていいだろう。これは実に印象的な作品だ。原作は米国人ジャーナリスト、エリック・シュローサーのベストセラー『ファストフードが世界を食いつくす』(2001年)。ファストフード産業の内幕を暴いた衝撃的なノンフィクションだ。リンクレーターはこの本に基づき、ファストフード産業で働く人々の人間模様を見事にドラマ化してみせた」
 レポートでは、肉食産業について面白おかしくまた深刻に映画を紹介しています。

 「DAY5」には「地球温暖化をテーマにした背筋が寒くなるようなドキュメンタリー『An Incovenient Truth』のプロモーションのためにやってきたのは、この作品で進行役を務めているアル・ゴア前米副大統領だ」という記事が出ています。
ご参考までに。            再拝

投稿: 田原康邦 | 2006年5月29日 17:19

突然の書き込み致します僭越をご容赦下さいませ。
フイードバックさせて戴きます。
現今の環境問題は甚だしい限りですが、喫緊の対策のアイデアを提示させて戴きます。
首都圏を中心とする「ヒートアイランド」に対して、こんなアイデアは如何でしょう。
ご存知の様に首都圏には神社仏閣が、恐らく万に達する程有ると存じます。その神社仏閣には相当広大な敷地が充てられて居ると思います。万教帰一の生長の家ならではの可能性として、それらの寺社に、教団として環境問題の緊急性を語り、境内に植林を至急協力の事をお伺いを立てる事です。勿論各々のお立場も有るでしょうが、今は立場を云って居る時では無い様です。その為、昔某教団が行った「○○大行進」位の熱気、情熱を込めれば、かなりの成果を挙げられると思います。
それと、植林をメインに運動展開をされて居ますが。植林は手間、時間が非常にかかります。植林も大切ですが、一年生の穀類作物(稲、小麦、トウモロコシ)当の植物でしたら、半年で生長し、実は食用、葉や茎はバイオエネルギーに変換できる時代です。砂漠化の拡大を穀物で行えば、進展は早いと思います。一石三鳥も夢じゃ無いと思います。

投稿: 中仙堂 | 2007年9月27日 16:58

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 映画『ダ・ヴィンチ・コード』:

« 中国で生分解性プラスチック | トップページ | “ネコ中毒”にご注意 »