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2006年5月19日

EUの排出削減値に疑問?

 5月16日の本欄で、EUの温室効果ガス排出量が順調に減っているらしい、と報告した。そして「EUが独自に設定した排出量上限内に収まる排出削減を達成し、EU全体では規制枠より4400万トンも下回る排出量になった」と書いた。欧州委員会がそう発表したからだ。ところが17日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、同じ発表について疑義を唱える記事を掲載した。その記事は、「EUのメンバー諸国は、自国内の企業に課した昨年の温室効果ガス削減目標が温情的すぎた(too generous)ことを認めた」と書き、「京都議定書で定められた義務をヨーロッパが達成できるかどうか、疑問の声が上がっている」というシブイ評価を下した。つまり、京都議定書の目標を達成するためには、ヨーロッパの“自主目標”は低すぎるというのだ。

 削減目標値が低いと少しの削減努力で目標が達成され、目標値と実際の達成値との差を「排出権」(余剰排出枠)として他企業や国に売ることができる。排出権が市場で多く売れれば、目標を達成した企業は利益を得ることになる。そういうわけで、同紙の記事は「これまでのところ、排出権市場は温暖化防止よりも電力会社の利益増進に役立ってきたようだ」と言っている。この排出権の値段だが、EUのこの制度がスタートした2005年1月には1単位9ユーロ(11.5ドル)だったのが4月には30ユーロ(38.34ドル)の最高値に達した。これによってヨーロッパの電力会社の利益は15~25%も引き上げられたという。
 
 削減目標の定め方に問題があったとはいえ、温室効果ガスの排出を減らすことが企業の利益に結びつくというこの制度は、今のところうまく機能しているように見える。しかし、どこか“錬金術”のような印象がある。排出削減目標は、政府が各企業に京都での合意にもとづいて割り当てるのだろうが、削減値の基礎となるものは企業側がつかんでいるデータだ。そのデータを実際より多く政府に届け出れば、割り当てられる削減目標は“温情的”となる。そして、実際の削減値がこの“温情値”より多くなれば、その差が「排出権」として経済的価値を生むのだ。どこかできちんとした第三者機関による「認定」が行われなければ、企業は意図的に“温情的な”削減目標を入手して、利益を生むことができるような気がする。
 
 上記の記事では、WWF(世界自然保護基金)のヨーロッパ担当者が「諸政府はだまされて来たのです。大企業は政府に対して排出量について間違った推測を与えてきました」と言っている。が、十分な削減量でなかったとしても、実際に温室効果ガスの排出量は減少しているのだろうから、何もしないよりはましだろう。同じ記事の中で、ノルウェーのオスロに本部があるエネルギーと排出権取引のコンサルティング会社、ポイント・カーボン社(Point Carbon)の主任研究員は、「京都議定書の目標達成となると、ほとんどの国はまだかけ離れている」と言っているから、さらなる努力が求められていることは事実だ。
 
 日本では今年の4月から「自主参加型国内排出権取引制度」というものが始まっているようだ。住友信託銀行が発行した『調査月報』の昨年3月号によると、この制度では、京都議定書の中で削減すべきとされる温室効果ガスの中では二酸化炭素(CO2)だけが対象とされる。参加者はCO2削減の設備投資のための補助金を受けられるが、それに見合う排出枠も設定される。枠内に収めた企業は余った排出権を売却でき、排出枠を超えた企業は排出権を購入して穴埋めする。排出枠算定の対象となるCO2は工場、オフィスからの直接排出と電気・熱の使用に伴う間接排出の両方を含めるが、営業車や通勤用自動車などからの排出は含まれない。取引しても目標を達成できない場合は、罰則として補助金の一部を返還する--こういう仕組みらしい。

 あくまでも「自主参加型」であり、営業車を規制しないというのが、どうにも中途半端だ。ドイツでは1842ヵ所、フランスは1075ヵ所、イタリアは943ヵ所に削減義務を課しているのと比べると、議定書のまとめ役だった国が「やりたい所がやれ」という態度では何とも情けないと思うのである。

谷口 雅宣

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コメント

合掌

副総裁先生からいつもホットなニュースをお知らせいただくので心から感謝しております。

英語でも私の拙い読解力では誤訳が日常茶飯事ですが、
副総裁先生のお言葉ですと安心して理解できます。

このたびの「ヘラルド・ツインビュー紙」の話が本当であればまだまだ、環境問題への取り組みについてヨーロッパでも真剣さ足りないのですね。

ヨーロッパのことはさておき、わが国おいては我々が先ず出来ることから始めることですね

現在の地球の温暖化はもう手遅れの状態なのでしょうか?
最近、そのように思えてなりません。

でも「たとえ明日の地球が破滅しようとも、今日私はリンゴの樹を植える」コンスタンチン・ゲオルギュの言葉ではありませんが、手遅れでないことを信じて微々たることかも知れませんが環境保全に努めます。

投稿: 佐藤克男 | 2006年5月20日 14:32

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