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2006年5月11日

中国のネット検閲

 本欄では、5月7日に中国での信教の(不)自由に触れて書いたが、その他にもこの国の「自由度」について、過去何回か悲観的な論評を述べてきた。それは、ブログ等のインターネットを使った「表現の自由」に関するもので、中国政府に批判的な意見等の検閲に、「自由の国」を標榜するアメリカのネット関連企業(グーグル、ヤフー、MSN、シスコ・システムズ)が協力していることを問題にしたものだった(1月8日、2月17日)。その際、ネット企業側の言い分を次のように紹介した:
 
 中国政府の検閲への協力を批判された4社の言い分は、「それでも、我々が中国国民にサービスを提供しないよりはいい」というものである。MSN社によると、同社が中国でサービスを開始した昨年5月から今日までに、約350万人の中国人がウェッブサイトやブログを開設したという。だから、不幸にも犠牲者が出たとは言え、自分たちのサービス提供によって中国人全体のコミュニケーションの機会は増え、表現の自由は拡大した、というのである。彼らはさらに、インターネットの規制は国家によっても完全にはできないから、必ず抜け穴ができて、それが中国における言論の自由を拡大させるのだという。

 これを書いた当時、私は問題の企業側の言い分は「言い逃れ」であり、彼らは金儲けのために中国人の自由を犠牲にしていると感じていた。が、5月9日の『ヘラルド・トリビューン』紙に載った記事を読んで、「もしかしたら、彼らは半分ぐらい正しいかも……」と思うようになった。その記事は、『ニューヨーク・タイムズ』のハワード・フレンチ記者(Howard W. French)が上海の大学キャンパスに潜入して、大学当局が学生のネット上の活動を検閲するために設けた“監視員”の活動を細かく伝えているものだ。
 
「監視員」などと表現すると、詰襟の制服を着て帽子を被り、厳めしい表情をした頑丈な体格の男性を想像するかもしれないが、記事の写真を見ると、今流行の洗いざらしのジーン・スーツを着て、ポニーテールの髪を栗色に染めた、丸顔の可愛らしい女学生である。彼女は大学のコンピューター室で、他の普通の学生と一緒にパソコンを操作しながらインターネット上のフォーラムを運営する。彼女のしていることが大学の「検閲」であることを、周りの誰も知らない。彼女は、教授や先輩監視員の助言を受けて自分の担当するフォーラムでの話題を選択する。政治に関することは、学内の政治のことであっても話題にしてはいけない。フォーラムでの会話がそういう“否定的な話題”に向わないように議論を進め、“問題発言”が行われた場合、大学のウェッブ担当者に通報するのが、彼女の仕事だという。

 この記事によると、中国には現在、インターネット担当の国家公務員が5万人もいて、“違法”のウェッブサイトを閉鎖したり、“有害”な評論を削除したり、党批判や“反社会的”な発言をした人間を逮捕するのを仕事としているらしい。しかし、この女学生は、そういう思想警察とは別に、ネット検閲のために政府が動員した“学生ボランティア”の監視員の一人で、上海のこの大学1校に、彼女と同じ立場の学生が500人もいるのだという。

 しかし、インターネットは世界中とつながっている。言語力がある学生ならば、英語やロシア語、日本語等の外国のサイトから情報を入手することも容易にできるだろう。そんな状況下で、好奇心旺盛な若者が海外の考え方を知ることを防ぐ手段は本当にあるだろうか? それを防止するために作られた“学生ボランティア”自身が、海外の考え方を完全に排除して、政府や党の考え方のみを自分のものとして維持し続けることが、本当にできるだろうか? 中国のネット人口が今後も増え続けることは間違いない。そして何億人もが、同じ考え方をもち続けるとは考えられない。とすると、海外のネット関連企業の中国参入は、短期的にはともかく、中・長期的には中国社会の自由拡大に貢献すると考えることは、それほど不合理ではないかもしれない。
 
谷口 雅宣

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