化石燃料の“呪縛”を断て
化石燃料が自由に使えない原油高騰の時代に、日本政府は“自前”の化石燃料開発に力を注ぐ方針らしい。私にはその理由がさっぱり分からない。地球温暖化の被害がこれだけ明らかになっているというのに、中東の政治的安定がとても期待できないというのに、隣国の中国や韓国と資源・エネルギーを含む政治問題で対立しているというのに、経済産業省は日本企業による石油や天然ガスの自主開発を推進することを、「新・国家エネルギー戦略」に盛り込もうとしているらしい。5月17日の『日本経済新聞』と同18日の『産経新聞』が伝えている。
両新聞の報道によると、政府は、2000年以来やめていた日本企業による油田やガス田の自主開発目標を復活させ、輸入化石燃料に対する自主開発の割合を現在の15%から引き上げ、2030年には40%に達する目標を設けるつもりらしい。2000年に自主開発目標が撤廃されたのは、原油価格が低迷していて、自主開発しなくても市場から容易に調達できたからだ。今回の目標復活は、昨今の原油価格の高騰で「世界的な獲得競争が激しくなる中で、政府として安定供給に一定の関与をする必要があると判断した」(『日経』)からという。このため、旧石油公団の事業を引き継いだ独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」による出資拡大や債務保証によって、資源探査や開発会社の支援を行う方針らしい。財源はもちろん税金だ。
また『産経新聞』によると、自民党のエネルギー戦略合同部会は17日、資源・エネルギーの自主開発を“最重要課題”とした「総合エネルギー戦略案」という提言を発表した。この提言では、9項目の筆頭に資源の自主開発を掲げ、官民が連携し、また資源国との協力の強化によって“日の丸メジャー”とも言うべき中核的な石油・天然ガス開発会社を育成すべきとしている。この“日の丸メジャー”の構想は今春、経産省が関わって、政府出資の国際石油開発と民間の帝国石油が経営統合したこととも関係がありそうだ。サウジアラビアのカフジ油田の権益が2000年に失効した後、同国との権益交渉が不調に終り、新たな自主開発油田であるイラン最大級のアザデガン油田は今、同国の核開発問題をめぐって困難に直面している。そんな中で、税金を投入して“自前”の化石燃料開発に本腰を入れようというわけだ。石油業界・政府・自民党との深いつながりを思わせる動きである。
私は『足元から平和を』(2005年、生長の家刊)や生長の家の講習会などで、これからの世界は地球温暖化の中で化石燃料の“奪い合い”の時代に突入するから、平和実現のためには化石燃料から自然エネルギーへの転換を急ぐべきだと主張してきた。しかし、石油業界・政府・自民党の三者は、上記のように“奪い合い”の渦中へ突き進む政策を進めているように思える。イラク戦争への支援で、自衛隊の海外派兵は既成事実化しており、折から憲法改正の動きも現実化している。私は憲法改正一般に反対しないが、地球温暖化を促進する化石燃料を確保するために憲法を改正して、自衛隊を国軍化することには反対である。かつての日米戦争が、インドシナの石油資源の封鎖によって始まったことを人々はもう忘れてしまったのだろうか。今度はすぐに日米戦にはならないだろうが、中国や韓国との対立はもう始まっている。
日本は今こそ、海外に依存する化石燃料の“呪縛”から抜け出すチャンスなのだ。自然エネルギーならば日本に豊富にあるし、自前の優秀な利用技術もある。その育成と活用に全力を傾注することが世界平和への貢献であり、政治の責任であると思う。既得権への執着は戦争への道であることは、昭和も平成も変わらないのである。
谷口 雅宣
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