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2006年5月22日

環境運動家の危機感

 東京・国立市の一橋大学で行われたレスター・ブラウン氏(Lester R. Brown)の講演会へ行った。ブラウン氏のことは、拙著『足元から平和を』(2005年、生長の家刊)や本欄などでたびたび触れてきたし、有名な人なので冗長な説明はしない。環境保護運動の“先駆け”的存在で、『地球白書』を出しているワールドウォッチ研究所(World Watch Institute)の創設者であり、現在はアースポリシー研究所(Earth Policy Institute)の所長をしている。今回の講演会は、一橋大学から名誉博士号を授与される際の記念講演で、授与式に続いて講演会があり、その後、同大の4人の教授を交えたパネル・ディスカッションがあった。また、会場ではブラウン氏の新刊『プランB 2.0』(ワールドウォッチジャパン刊)が売られ、サイン会も行われたから、この本の出版記念とプロモーションも兼ねていたのだろう。ちなみに、本の奥付にある発行日は今日である。

「プランB」というのは、選択肢がA,B,C……とある中で、Bを選択する計画のことである。ブラウン氏によると、人類はこれまで化石燃料を地中から掘って、それを燃やすことで文明を築き上げてきたが、今日の地球温暖化等の諸状況を見ると、この“プランA”では人類の文明の終りを招くことは明らかだから、もっと別の、枯渇しない自然エネルギーを基本とした別の文明へ移行する計画(プランB)を策定して、早急に実行に移さなければならない、というのである。その具体的方策を示しているのがこの本である。
 
 私は、この本の英語版をブラウン氏の研究所のウェッブサイトから入手してすでに読んでいたし、1月にサンパウロ市で行われた生長の家の国際教修会で行った講話の中でも、この本の中から引用していた。だから氏が今回、はるばる日本まで来て何を言うのかと期待していた。しかし、講演のほとんどは本に書いてあることだった。例えば、世界最大の石油消費国であるアメリカのガソリン消費を大幅に削減する方法などは、すでに1月31日の本欄で氏の本から紹介した通りだった。

 が、だからと言って、私が失望したわけではない。本から受ける印象とは違った生身の男、レスター・ブラウンを知ることができたし、彼が今、何を感じ何を考えているかの一端を、言葉の端々から感じることができた。彼は気さくで、飾らない、眉まで白い白髪の老人だが、身のこなしは軽く、トレードマークの赤い蝶ネクタイが良く似合う。そういう外観の奥に、強い信念と使命感を感じさせる人だった。
 
 私が、氏の話の中から感じたことの一つは、今日の石油の値段の“高止まり”の状況が世界にもたらす深刻さである。このことのは、すでに4月14日の本欄で「原油高騰で森林減少か?」という題で触れているが、今日の氏の指摘で改めて目を開かされた。簡単に言うと、石油の値段が1バレル=60ドルを超えてくると、農産物を使ってバイオエタノールやバイオディーゼルを生産することが、食糧生産よりも利益を生むようになるというのである。すると、農民たちは食糧生産をやめてエネルギー生産へ切り替えるようになり、食糧が不足して値段が高騰する。この事態がすでに始まっているというのだ。アメリカでは今、バイオエタノール製造工場が95あるが、1月のブッシュ大統領の一般教書演説の影響もあるのだろう、35がすでに建設中で、99が建設を計画中だという。これにより5500万トンの穀物がエタノール生産に回される計算になる。この「5500万トン」という量は、カナダ1国が年間に生産する穀物の量を上回るという。これだけの量が、来年、再来年の人類の食糧から消えるのだ。

 この問題は、貧しくて食糧を買えない国々だけでなく、食糧の7割を輸入に頼っている日本人の今後の問題でもある。前回の本欄で、私は沖縄県のサトウキビ生産について肯定的評価をしたが、事態は楽観できないかもしれない。サトウキビはもちろん、人類が砂糖の生産のために使ってきたものだ。これが大量に自動車用燃料の生産に回されれば、砂糖の値段は上がる。4月14日には、それが現実に今起こっていることを書いた。消費者にとって、穀物や砂糖の値上がりは好ましくないが、生産者にとっては、これは大きなビジネス・チャンスだ。需要が拡大しているのだから、どんどん農地を拡げていくことを政府は禁じられるだろうか? ここで森林伐採を加速させるか、それとも食糧の値上がりで貧困層の犠牲を増やすかという困難な選択が待っている。もう1つの困難な選択は、世界の富裕層のために燃料を生産するか、あるいは貧困層のために食糧を生産するか、である。

 このような選択が深刻な状況を生まない前に、我々は早く「プランB」への転換を実行しなければならない--こういう危機感を、私はブラウン氏の講演から読み取った。パネル・ディスカッションの最後の方で、環境教育を専門にしている教授からブラウン氏への質問があったが、それへの氏の答えは一見“冷たい”ようでありながら、本当は暖かい。氏は、自分は今、教育のことを重要と考えないと答えたのだ。その理由は、環境教育を受けた子供が成人して社会に影響力をもつようになるまで、事態は待ってくれないからだという。「今、最も重要なのは、現在の社会で影響力をもつ人々に働きかけて、今社会の動きを変えることだ」というのが、氏の結論だ。

谷口 雅宣

PS:レスター・ブラウン氏の日本での講演予定は、ワールドウォッチジャパンのサイトに掲示されている。

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コメント

感謝

《環境教育を受けた子供が成人して社会に影響力をもつようになるまで、事態は待ってくれないから》

事態は本当に深刻なのですね
私はエコ・エコノミーに携わる一人ですが、遠慮気味に太陽光発電、オール電化を進めて来ました。
しかし、もっと積極的にこの事業に取り組まなければと痛感させられました。

ただ、私が積極的になればなるほど、環境保全に一所懸命とは思われずに、商売に熱心と思われてしまいます。

いっそ、このビジネスから離れてライフワークとして取り組むべきかと悩んだりします。

しかし、この環境保全活動もレスター・ブラウン博士のように問題を提起する人、副総裁先生のように自ら率先垂範し活動を提起する方、そしてこの活動に共鳴し自らが環境保全活動を実践する人(活動家であり消費者)、そして環境保全の仕組み、技術を開発し作る人、それを販売する人など沢山の人が役目を全うして始めて結果が出る活動だと思います。

私はその一角である販売を担当しておりますが、どのような心構えでこの環境保全活動に取り組むべきでしょうか?
ご指導を願います。

投稿: 佐藤克男 | 2006年5月23日 14:24

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