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2006年5月12日

ロンドンのテロ (5)

 昨年7月にロンドン中心部で起こった同時爆破テロ事件について、イギリスの国会と内務省が11日、それぞれ調査報告書を発表した。今日(5月12日)付の『朝日新聞』によると、報告書は、この事件は「英国の地方都市で育った移民2世が計画、実行したことが裏づけられた」とし、「実行犯4人は国際テロ組織アルカイダに触発されたが、直接の関係は証明できなかった」と書いている。同じく12日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によれば、7月7日の実行犯4人と、その2週間後に交通機関を狙った爆破未遂事件を起こした人物との関係については、報告書は「何も見出せなかった」と結論している。結局、組織的な犯行ではなく、少数の個人が、他とは無関係で実行した事件という印象の報道である。
 
 かつて本欄では、7月12日14日20日8月3日の4回に分けて「ロンドンのテロ」と題してこのことを書いた。そこでのポイントは、この事件はアメリカの9・11とは異なり、①被害国社会の内部から生じたテロであること、②アルカイーダとの直接の関係はないこと、③単なる武力や警察力だけでは、この種のテロは消滅しないこと、④自爆テロリストの動機には「イスラム教徒としてのアイデンティティーの危機」が考えられる、などだった。今回の報告書の内容は、この①と②を確認するもので、新しさはあまりないと私は思った。が、新聞報道から私が1つ新しく知ったのは、イギリスの情報機関は事件の主犯格の男、シディック・カーン(Siddique Khan)とシャザード・タンウィーア(Shazad Tanweer)のことを事前に把握していたものの、その重要性についての認識がなく、当時、もっと重要だと思われたイギリス攻撃計画の妨害工作に力を振り向けるため、彼らの動静や計画をより深く追究しなかった、という話だ。この「イギリス攻撃計画」については、上記の2紙は何も書いていない。

 12日に放映されたアメリカのABCニュースは、9・11との類似性を正面に出した報道となっていた。つまり、アメリカの情報機関と同様に、イギリスの情報機関もテロ実行犯をマークしていながら、その脅威を過小評価していたために、テロの防止に失敗したというのである。具体的には、7月7日のテロの4人の実行犯のうち2人までを調査しており、主犯格のカーンについては電話番号も写真も入手していたどころか、イスラム過激派との間に交わされた電話の内容も録音していた。調査は2回に及んだが、その2回とも、当時起こった別の重要事項(more pressing priorities at the time)のために調査は途中で打ち切られたという。

 ところが、同じ12日に放映されたBBCニュースを見て、私は驚いた。事件の現場であるイギリスでは、テロ実行犯は「恐らくアルカイーダとのつながりがあった」(probably had contacts with Al Qaeda.)とハッキリ言っていたからだ。現地午後10時放映のニュースによると、「自爆犯とアルカイーダの人物とのつながりは何年も前からあったらしいことを我々は今、伝えられている」(We are now told that it is likely that the bombers had contacts with Al Qaeda figures going back years.)というのである。イギリスの情報機関では、自爆犯に対するアルカイーダの支援と指示がどの程度であったかをまだ調査中だが、カーンは90年代にアフガニスタンでテロの訓練を受けた可能性があり、パキスタンにも何度も行っているというのである。
 
 こうなってくると、『朝日』の記事は見出しが「アルカイダ関与なし」というのだから、限りなく「誤報」に近いと言える。BBCの報道から考えると、「直接の関与は証明できなかった」というのは「現在まだ調査中であるが、疑いはかなり濃い」という意味だろうから、それを「関与なし」と結論するのは間違いだろう。今回の報告書の1つはBBCのサイトでも入手できるから、しっかり読んでから報道してほしかった。なお、『産経』ではこの件の報道はまだ出ていない。
 
谷口 雅宣

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