順調なEUのCO2削減
21ヵ国を擁するEU(欧州連合)の二酸化炭素排出量が順調に減っているらしい。欧州委員会が15日に発表した集計では、21ヵ国中15ヵ国までが、EUが独自に設定した排出量上限内に収まる排出削減を達成し、EU全体では規制枠より4400万トンも下回る排出量になったという。排出量上限を大幅に下回る好成績を上げたのはドイツ、フランス、チェコ、フィンランドなどで、逆に排出量が上限を大幅に超えたのはイギリス、スペイン、イタリアなどだった。EUが定めた排出権取引制度(EU ETS)にもとづく集計で、域内の大規模工場から出るCO2だけを対象としており、自動車や家庭からの温室効果ガスの排出量は含まれていない。しかし、大規模工場からの排出量は、京都議定書の規制対象にする温室効果ガス全体のほぼ半分に相当すると言われており、これによってEUが全体として同議定書の目標達成を目指すことの現実味が増してきた。16日付の『日本経済新聞』が伝えている。
EUは2005年から域内独自の排出権取引制度(EU Greenhouse Gas Emission Trading Scheme)を実施している。それは、域内21ヵ国の1万1千ヵ所の発電所や大規模工場ごとに排出量の上限を設定し、この上限に達しない排出量削減努力を行った企業が、その余分の削減分を「排出権」として売却できる仕組みだ。削減目標に達しなかった企業は、この排出権を購入することで削減量を増やすことができる。今回の数字は、それらの排出権を実際の排出量から差し引いた後の実績値である。
ドイツは、いろいろな面で環境対策に先進的アイディアと成果をあげているが、『日経』の記事によると、今回の成功は、電力会社や大手企業の工場計1842ヵ所に排出上限が設定され、それらが目標達成に向かって省エネを進めたことが主因らしい。また、電力会社が風力発電など再生可能エネルギーへの転換を進めていることが好成績に貢献しているという。EUのウェッブサイトで得た情報によると、ドイツの「1842ヵ所」に対して、フランスは1075ヵ所、イタリアは943ヵ所、スペインは800ヵ所、イギリスは768ヵ所、デンマークは380ヵ所が、今回の排出削減の対象となっている。また、今回の排出上限の設定期間は「2005~2007年」までで、その後、京都議定書の期限(2012年)までの第2次の排出削減努力がEU全体で行われる。
5月13日の本欄で、日本企業の排出権取引の努力は現在、中国を中心にして行われていることを伝え、中国でそれを行うことのリスクも書いた。だから、日本国内の工場等でも排出権取引による温室効果ガス削減努力がどんどん行われることが望ましいのである。「もう国内での努力は限界だ」という意見があるかもしれないが、私はそう思わない。かつての不況時には、日本国中で夜間の照明を控えたり、モニュメントや高いビルの夜間の“ライトアップ”を取りやめた。しかし、今はどうだろか。それらはすべて復活したどころか、従来の何倍も明るいと思われる照明が夜の日本を照らしている。企業の“好意”や“自主的努力”だけでは、実質的な排出削減などできないと思う。排出削減が金銭的にきちんと評価される制度が世界で認められているのだから、なぜ国内でもっと実施できないのかと思う。
文化も言語も発展程度も異なる21ヵ国を擁するEUで可能なことが、日本でできないはずはない。日本政府は「小泉後」と言わずに、今すぐにでもリーダーシップをとってこの分野で世界に貢献するような成果を上げてもらいたい。日本で合意された「京都議定書」を泣かせてはならないと思う。
谷口 雅宣
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コメント
合掌
京都議定書が結ばれた折り、世界各国から日本へ環境保全の専門家がみえました。
そのとき彼らが日本という国をみて、なんとエネルギーを無駄使いしている国だと蔑んだものです。
その一つは、コンビニエンスストァが乱立して、夜遅くまで営業している。本当に必要なのかと言っておりました。
もう一つは、自動販売機の乱立です。
街道沿いに夜、夜中まで、煌々と電気を点けて営業している訳ですが、無駄だと思うと言っておりました。
あれから十年が過ぎようとしておりますが、我々の身近では何の努力もしていないように感じます。
これがわが国の姿なのですね。
残念です。
24時間営業のコンビにはそれほど必要ではないし、自動販売機も不要です。
ましてや、くだらない放送ばかりしているテレビ放送も深夜は不要です。
我々も出来ることから始めなくてはと思うものです。
このようなことは政治が規制という形で動かなければ出来ないものなのでしょうか?
投稿: 佐藤克男 | 2006年5月17日 06:55
佐藤さん、
>> このようなことは政治が規制という形で動かなければ出来ないものなのでしょうか? <<
「政治がマスメディアを規制する」というのは、一時代前の考え方ではないでしょうか? 中国ではそれをやっているようですが、私は反対です。自動販売機や24時間営業は、環境税あるいは炭素税をかけることで少しは減ると思います。夜間の不要の照明についても、多少は減るでしょう。また、EUのように、大手企業に排出量の上限を設定するというのも、考えられる方法の一つではないでしょうか。あとは、国民意識の変革しかないのでは……?
投稿: 谷口 | 2006年5月17日 11:18
感謝
《EUのように、大手企業に排出量の上限を設定するというのも、考えられる方法の一つではないでしょうか》
EU の場合は法的に規制をしているのでしょうか?
そして、
わが国で未だそのようなこと(上限設定)がなされていないのでしょうか?
もし、なされていないようでしたら怠慢そのものですね。
先ず出来ることからはじめていかなければ、この星は死の星へ向かって走っていることになりますね。
手遅れにならなければと願っております。
合掌
投稿: 佐藤克男 | 2006年5月18日 11:29
佐藤さん、
>> わが国で未だそのようなこと(上限設定)がなされていないのでしょうか? <<
日本の排出権取引の制度については、5月19日のブログで少し書きました。ご参考に……
投稿: 谷口 | 2006年5月20日 12:05