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2006年4月13日

GM動物の誕生

 すでにご存じのことと思うが、最近、遺伝子組み換え(GM)とクローニングによってブタが初めて作られた。このブタは、心臓の機能を向上させ、心臓病予防の効果があるとされる「オメガ3脂肪酸」という物質を多く生成するような遺伝子組み換えが行われているという。現在、この物質を体内に取り入れるためには、栄養補助剤を服用するか、それを多く含む種類の魚(サケやマグロ)を食べる必要があるが、後者は水銀汚染のリスクを伴う。だから、ブタ肉からそれを補給することで、心臓病を予防することができると同時に、減少しつつある魚に頼らずに必要な栄養素を得ることができるようになるという。
 
 この研究は、ピッツバーグ大学とミズリー=コロンビア大学などの研究チームによって行われ、『Nature Biotechnology』誌に発表された。このチームのメンバーは、2004年にまず線虫の遺伝子を使って、肉類に多く含まれる「オメガ6脂肪酸」を体内で「オメガ3脂肪酸」に変換するブタを作った。今回は、そのブタの遺伝子を使い、核移植によるクローニングの方法で子ブタを作ったのである。

 動植物の世界では、人間の好みに合わせた種を作り出す“品種改良”は当たり前に行われてきたが、それを遺伝子組み換えで行うことへの抵抗はまだある。例えば、昨年9月27日の本欄で扱ったGMブドウでも、それが栽培されている畑は「高さ180センチのフェンスで囲まれ、侵入防止用のセンサーとビデオカメラで守られている」と書いてある。これは、ヨーロッパではGM作物のことを“フランケン作物”などと呼んで毛嫌いする人が多く、中には実力でGM作物を破壊する人もいるからだ。

 しかし、世界全体を見ると、GM作物への態度は国によってまちまちである。昨年5月17日の本欄で伝えたように、中国では害虫耐性をもたせたGM種のイネの栽培が、農薬の使用削減と収量の増大につながっており、インドでは違法に作られた害虫耐性のGM種の綿花が、収量の増大とコスト削減をもたらしているため、作付面積が拡大しつつある。しかし日本では、約30種のGM作物の栽培が国の審査を経て認められているが、地域住民や近隣農家への影響を考えて、GM種の栽培に二の足を踏む農家がほとんどである。それとは対照的に、アメリカではGM作物に対する抵抗はほとんどなく、大量に栽培されている。
 
 GM種の植物の栽培が警戒の目で見られるのは、いったん自然界に放たれると、植物は“回収”することが困難になるからだ。花粉が飛散し、あるいは虫に運ばれて自然界の近縁種と交雑し、“雑草化”することが指摘されているし、海外ではそういう事例が現実に報告されている。では、動物のGM種はどうだろう? 動物は昆虫のように小さいものはともかく、ある程度の大きさ以上のものでは、自然界への“放出”が規制でき、“回収”も比較的容易である。特に、家畜はそう言える。だから、今回のブタの遺伝子組み換えの場合もあまり騒がれなかったのだろう。
 
 しかし、植物に比べ動物の--特に人間に近い哺乳動物の遺伝子組み換えやクローニングは、倫理的な抵抗をより多く惹き起こすものである。4月1日の本欄では、牛肉の“霜降り”状態を作る遺伝子を京都大学の研究者が発見したことに触れたが、この研究の場合も今回のブタの場合も、その目的は明らかである。それは、人間(日本人?)にとって美味であり、栄養バランスのよい肉を効率よく生産するためである。3月7日の『産経新聞』には、静岡県中小家畜試験場が、クローン・ブタ同士の雌雄交配により“クローン・ブタ2世”を誕生させたことが報道されていたが、これにより「親の性質を引き継いだ優良な豚を効率的に生産できる」と書かれている。これまでの方法では、クローンが無事に誕生する確率は約1%だったのに対し、クローン同士の交配が可能となれば、動物のクローニングは商業ベースに乗るだろう。イヌやネコのクローニングはすでに実現しており、今年2月、米テキサス州のバイテク企業が競技馬のクローンを誕生させた。

 この種の技術が目指している社会を想像してみてほしい。人間の好みに合わせて家畜やペットをデザインし、それをクローニングの技術を使って大量生産する。そのことが人間の幸福増進や社会の発展に寄与すると考えているのである。読者は、「人間のクローンだけは別」と考えるだろうか? 私は、そういう思想上の“種の壁”もどんどん低くなっていると思うのである。

谷口 雅宣

【参考文献】
Transgenic pigs are rich in healthy fats
Researchers Create Pigs that Produce Heart-Healthy Omega-3 Fatty Acids

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