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2006年4月 6日

男にも再生の道?

 ES(胚性幹)細胞の研究については、韓国のファン・ウー・ソク教授が関わった“捏造論文”の影響が尾を引いているのか、最近はあまり話題にならないようだ。その代わり、別の方法でES細胞に似た能力をもつ細胞をオスの生殖器から作成する方法が開発されたらしい。ただし、まだ人間の細胞を扱うのではなく、マウスの段階での研究である。しかし、これが人間に応用できるようになれば、従来のES細胞のような倫理問題を起こさずに、再生医療に役立つ可能性がある。

 ES細胞や体細胞クローンの作成にあたっては、これまでは受精卵や卵子が使われ、精子は使われなかったことはご存じだろう。私は、このことをかねてから不思議に思っていた。人間も動物も、生殖器官を除いては、オスとメスは基本的に同じ体の構造であり、遺伝子もXY染色体を除いては同じである。“下等”と言われる動物の中には、オスとメスが容易に入れ替るものもあり、植物には雌雄同体は珍しくない。一つの生物種の中では、オスとメスは単にバリエーションの違いであり、本質的な差異ではない。人間の体内にある成人幹細胞も、男のものも女のものも、多種類の組織や臓器に分化する脳力を等しくもっている。だから、オス(男)の生殖細胞からもES細胞に似たものができて不思議はないはずだ--こんな疑問である。
 
 そんなところへ、ドイツの研究チームがマウスの精原細胞(spermatogonial cells)からES細胞に似た幹細胞を得ることに成功した、という話が飛び込んできた。3月24日の『New Scientist』のニュースが伝えている。もしこれと同じ方法が人間で可能ならば、男性の患者は、自分の体のスペアを自分自身から比較的簡単に得る道が開かれることになる。また、ES細胞作成に当っては、これまでは受精卵や卵を破壊することが不可避だったため倫理問題を起こしてきたが、この方法が確立すれば、そういう問題がかなり軽減すると思われる。
 
 この研究は、ゲオルグ-アウグスト大学のゲルド・ハッセンファス教授(Gerd Hasenfuss)らのチームの手になるもの。彼らは、マウスの睾丸から精原細胞を取り出し、それを成長ホルモンや栄養素の中で培養することで、精子に分化させずにES細胞のような多分化型の幹細胞(multipotent adult germline stem cells)を作ることに成功した。ハッセンファス教授によると、その幹細胞は心筋細胞、血管細胞、神経細胞、皮膚細胞、そして肝細胞など、あらゆる種類の細胞に変化させることができるという。精原細胞は、精子になる前の段階の細胞で、これを取り出すことは、ガン治療の際や不妊治療等で普通に行われているというから、特に難しい技術ではないという。
 
 しかし……と私は考え込んでしまう。自分の生殖器から取り出した細胞を培養して、自分の体内の別の場所の補修に使うことが本当にできるのだろうか? もしそれが可能なら、自然状態でなぜそれが起こらないのだろう? 言い換えると、そういうメカニズムが何十万年という人類の進化の過程で、どうして体内に整備されてこなかったのだろう、と思う。肉体内部の諸組織や諸器官相互の精緻で複雑極まりないオーケストレーションを考えると、そういう内在のメカニズムよりも、人間が外から器具や機械を使って操作する方法の方が優れていると、どうして言えるのだろう? 医学の世界は、わからないことだらけである。
 
谷口 雅宣

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