« 皇室制度の議論を深めよう (3) | トップページ | 竹林へ行こう »

2006年4月17日

科学者も悩ましからずや

 1月30日の本欄で、NASA(米航空宇宙局)の科学者が研究結果やそれに基づく自分の科学者としての信念を公表することを、上層部から禁じられていると訴えた話を書いた。その信念が地球温暖化の危機についてだったので、『ニューヨークタイムズ』はブッシュ政権の政治的圧力の疑いがあるとして大きく取り上げたのだ。この科学者は、NASAの下部組織であるゴッダード宇宙学研究所(Goddard Institute for Space Studies)のジェームズ・ハンセン所長(James Hansen)だが、この“騒動”の後始末がどうやらついたようだ。4月7日付の科学誌『Science』(vol 312)によると、NASAの局長であるマイケル・グリフィン氏(Michael Griffin)は3月30日に同局のメディアへの対応方針を明らかにした文書を発表し、その中で、NASAの科学者は、「可能ならいつでも」事前にそれを報告すれば、「自分の研究についてメディアや国民に話すことができる」とした。
 
 当たり前と言えば当たり前のことだが、これ以前の暗黙のルールは、NASA職員は事前にPR部門から許可を得ねばならなかったという。これは一種の“検閲”だということで、連邦下院科学委員会のシャーウッド・ボーラート委員長(Sherwood Boehlert)などから批判されていた。ハンセン所長は新方針を「大きな変化だ」と歓迎している。私も、今後はNASAから地球温暖化についての正確な情報が、迅速に発表されることを大いに期待したい。

『Science』と言えば昨年末、韓国のES細胞研究者が偽造データーを使った論文を掲載したということで話題になったが、この論文は雑誌から“撤回された”(retracted)ことは御存じだろう。が、よく考えてみると、すでに雑誌に発表され、その雑誌が世界中に流通しているものを「撤回する」とは、具体的にどうすのか? すべての雑誌を回収して当該論文のページを破るわけにもいかない。で結局、「撤回されました」とアナウンスするだけで特に何もしないらしい。すると、その“撤回された”論文を引用して自分の論文を書く人も出現する。その中にはもちろん、ある論文がなぜ撤回されたかを自分の論文に書くための引用もある。この場合は問題がない。しかし、撤回された事実を知らずに、その論文が正しいデータや方法に基づいているとの前提で引用すると、引用した論文まで“怪しい”と思われてしまうだろう。

 上掲の『Science』によると、同誌の編集者がインターネット上の科学論文検索サイトを調べたところ、“撤回された”論文を引用している論文が何ダースもあったという。また、ネット上の論文であれば、実際に撤回することは簡単だと思うが(掲載されたサイトから削除すればいい)、ネット上には「この論文は撤回されました」と赤文字で書いたまま、その論文が掲載されているものもあるという。こんな場合は「撤回する」という言葉の誤用だ。そんな話を聞いてみると、一流の科学雑誌の論文であっても、頭から鵜呑みにしない方が賢明であることが分かる。
 
 科学者の研究にも、学問とは直接関係のない問題がいろいろあるのだと思った。

谷口 雅宣

|

« 皇室制度の議論を深めよう (3) | トップページ | 竹林へ行こう »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 科学者も悩ましからずや:

« 皇室制度の議論を深めよう (3) | トップページ | 竹林へ行こう »