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2006年4月 5日

イエスは湖上を歩いた?

イエスは湖上を歩いた?

 4月3日の本欄で「祈りの効果」の科学的研究を紹介したが、その際、“偽薬効果”(プラシーボ効果)と呼ばれるものに言及した。これは、医学的効果がないものも「薬」だと思って服用すると病気が治る場合があることを指す。宗教で“奇跡”と呼ばれるものの中には、この種のものも相当数含まれていると考えられる。この効果が起こる仕組みについて、昨年9月16日の本欄では、脳内に生成されたエンドルフィンという物質が作用して強力な鎮痛効果を生むことを示す研究を紹介した。エンドルフィンの効果は「鎮痛」だけでなく、免疫系を含めた体全体に及ぶから、祈りが“偽薬効果”を生み出せば、病気の治癒に積極的に関与することは十分考えられると思う。

 それでは、聖書にあるイエスの数々の奇跡も偽薬効果の一種なのだろうか? そう訊ねられると、2000年後を生きる外国人としての私は、「そういう場合もあっただろうし、そうでない場合もあっただろう」としか答えられない。それに、聖書に記録されている“イエスの奇跡”は、病気治しのほか、悪霊を追い出したり、死人を甦らせたり、大漁を呼び寄せたり、嵐を静めたり、イチジクを枯らしたり、湖上を歩いて渡ったり……と実に多岐に及ぶ。これらの中には事実だったものもあるかもしれないし、事実を見誤った一種の“集団催眠”が見せた現象が含まれていたかもしれない。とにかく、現代に於いて事実関係を検証することは、もはや不可能だろう。
 
 そう思っていたところへ、イエスが「湖の上を歩いて渡った」という話は現実にありえる、という研究が最近、発表されたらしい。本欄のアメリカの読者がそれを伝えるニュースを教えてくださった。この話は、フロリダ州立大学の海洋学者、ドロン・ノフ教授(Doron Nof)が学術誌『 Paleolimnology』(考古陸水学)の4月号に発表した論文で述べているもの。ただしノフ教授は、「我々の研究が聖書の記述を説明しているかどうかについては、何とも言えない」としている。

「イエスの湖上歩き」の話は、新約聖書の3つの福音書に出てくる。そのうち、記述がもっとも詳しいのは『マタイによる福音書』である。その部分(14:22-27)を引用する:

「イエスは群衆を解散させておられる間に、しいて弟子たちを舟に乗り込ませ、向こう岸へ先におやりになった。そして群衆を解散させてから、祈るためにひそかに山へ登られた。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。ところが舟は、もうすでに陸から数丁も離れており、逆風が吹いていたために、波に悩まされていた。イエスは夜明けの4時ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた。弟子たちは、イエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声をあげた。しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、“しっかりするのだ、わたしである。恐れることはない”と言われた。」

 引用文中に「海」とあるのは、現在のイスラエル北部にあるキネレ湖(Lake Kinneret)と考えられる。この湖には岩塩を含んだ小川が何本も注ぎ込んでいるという。科学者はこの湖の水の組成等を調べ、当時の地中海の温度の記録や気候モデルなどを加味してシミュレーションした結果、今から1500~2500年前にあった2回の寒い期間に、最長で2日間、周辺の温度が氷点下4℃まで下がったという結論に達したという。こういう状態だと、湖の西岸に流れ込む小川からの塩水が氷結して、湖の表面に小さな氷の塊がいくつもできる可能性があるという。これは極めて希な現象で、イエスの時代には30年から60年に1回起こったと考えられるが、気候が変わった現代では千分の一の確率だという。

 もし、この氷塊の上を伝ってイエスが未明に、対岸から湖上の舟まで渡ったとしたならば、彼の運動能力は相当のものだということになる……読者はどう思われるだろうか?
 
谷口 雅宣

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