東京都が省エネ都市?
石油など資源の使用を抑制する「省エネルギー型都市」へと、東京都が転換しようというらしい。近く公表される『都環境白書2006』にその構想が盛られている、と27日の『産経新聞』が伝えている。「それはいいことだ」と思ったが、「しかし……」と考えざるを得なかった。なぜなら、「省エネ」と「大都市」とは互いに相容れない概念だと思うからだ。
都の問題意識は、理解できる。例えば、記事にもあるように、東京都の平均気温は100年間で3℃上昇し、昨夏の真夏日は史上最多の「70日」を記録し、いわゆる“ヒートアイランド現象”が深刻だからだ。『白書』では、2030年には都市人口が世界人口の6割に達すると予想し、都市での環境対策が地球環境を左右すると指摘しているらしい。だから、都市を省エネ化しなければならないというわけだ。「都市化を避ける」のではなく、「都市の拡大」を前提に省エネ化を図るらしい。
『白書』がまだ出ていないので断定はできないが、ここでは「一人当たりのエネルギー消費量」を下げることを「省エネ」と呼んでいるようだ。この数値は、都がロンドンとほぼ同じだが、ニューヨークは東京の2倍強もある、と都は分析している。この計算の根拠は何だろう? 私が想像するに、ニューヨークの値が高いのは多分“摩天楼”のせいだ。超高層ビルは水槽をビルの屋上に置いている場合、強力なモーターを使って水を高層へ上げるために、電気を多く使うことになる。また、エレベーターを動かすモーターも、ビルの高さに応じた強力なものが必要になる。これに冷暖房のことを考えると、高層ビルが多ければ多いほど、都市のエネルギー消費量は増えることになるだろう。ただし、ここでの数値は「一人当たり」のエネルギー消費量だから、同じ構造と高さのビルが2棟あったら、そこで働き、あるいは居住する人の数が多い方が“省エネ”ということになる。
ここで、日本とアメリカの文化的差異が出てくるのではないか。日本の事務所は、大部屋に大人数を収容しているケースが多く、アメリカの場合は、小部屋に少人数、あるいは役員などは個室を広々と使う傾向がある。だから、同じ構造と高さのビルであっても、東京のビルの方がニューヨークよりも多くの人を収容している可能性が高い。したがって“省エネ型”ということか? しかし、ロンドンと東京の“省エネ度”がほぼ同じというのは、よく分からない。
上記の『産経』の記事には、この省エネ作戦が2016年のオリンピック誘致と関係があるように書いてある。つまり、「シドニー五輪以降、環境にやさしい五輪の考え方が、候補地選考の重要な要素になっている」というのである。五輪誘致には、すでに福岡市が名乗りを上げているし、2012年開催地のロンドンもCO2削減の野心的な目標(2050年までに2000年比6割減)を掲げているから、これらとの対抗上、スタイルとして“省エネ”を掲げる必要があるということかもしれない。
現在の都のオリンピックの構想では、都心部から半径10キロ圏内に大半の競技場と関連施設を設ける「世界一コンパクトな五輪」を目指しているという。具体的には、中央区の晴海埠頭の都有地にメイン会場として8万人規模のスタジアムを建設し、選手村を江東区の有明地区に定め、プレスセンターなど関連施設を中央区の築地地区に構えるなど、開発途中の臨海部に集中的に施設を造る計画だ。
そこで私は疑問に思う……そういう大規模施設を次々と建設する過程で長期にわたって排出される大量のCO2と、でき上がった五輪施設を含む“省エネ都市”東京との関係はどうなるのだろう? 工事中に排出した分の温暖化ガスと、新たな大規模施設が“省エネ”する分を比較すれば、前者の方が後者よりも圧倒的に多いと私は思う。石原都知事にはそんな「大向こう受け」を考えるよりも、2016年までに東京の臨海部が温暖化による海面上昇の被害を受けないような、もっと着実な対策を講じてほしいものである。
谷口 雅宣
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