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2006年3月29日

映画『シリアナ』

 渋谷の映画館で『シリアナ』という作品を見た。「石油・CIA・アラブがからんだ話」という程度の予備知識しかなかったのだが、映画が始まって監督や役者の名前が出てくるところで、原作が『See No Evil』(悪を見ず)だとあるのを見て、内容が分かった。1月24日の本欄に、私がその日にニューヨークの書店で買った本のリストが掲げてあるが、そこにこの本の名前が含まれている。副題は「The True Story of A Ground Soldier in The CIA's War on Terrorism」(CIAでテロと戦う地上兵士の実話)で、この本の日本語版の題は『CIAは何をしていた?』(ロバート・ベア著/佐々田雅子訳、新潮社、2003年)という。映画の内容も、そういう政治色の強いものだった。

 2時間以上の映画だが、ストーリーはアメリカとアラブの地で同時併行的に展開していく上、3~4人の異なった登場人物の視点から重層的に描かれていくので、複雑でわかりにくいことは否定できない。しかし、そのことが却ってリアリティーを生み出している。なぜなら、現実は複雑でわかりにくいからだ。これらの人物とは、CIA工作員、エネルギー・アナリスト、パキンスタンからの出稼ぎ労働者、そしてワシントンの法律家である。通常はあまり関係のなさそうなこれらの人物が、「テロリズム」という現象を媒介として皆つながって描かれている点が興味がある。

 ノンフィクションの原作をベースにし、監督もリアリズムを追及しているから、前に本欄で取り上げた『亡国のイージス』のような“肩すかし”は食わされなかった。私は「平和」「環境」「資源」の問題は今日、互いに密接に関連していると述べてきたが、この作品は「環境」を除いた残り2つの問題の関連をよく描いている。さらに、そこに「貧困」と「悪政」の要素を加えて説得力のあるものになっている。ごく簡単に言うと、テロリズムが生まれる背景には、少数がとてつもなく豊かな王国にいる、とてつもなく貧しい人々の絶望感があり、この悪政を守っているのが国益優先のアメリカの対外政策だ--というのが監督の訴えようとしている点だろう。ここでテロリストは、家族と同信の仲間のために“巨悪”を狙って自爆する純粋な少年として描かれている。
 
 マイケル・ムーアの映画『華氏911』(2004年)を見た時も感じたのだが、こういう政府批判の映画が堂々と上映され、正しく評価されるという点で、アメリカは立派であり、羨ましい。本作品の製作総指揮を行い、自らCIA工作員を演じたジョージ・クルーニー(George Clooney)は、今年のアカデミー賞助演男優賞を受賞した。彼は「この作品は反アメリカ的だと思いますか?」との質問に対して、次のように答えている:
 
「いや、むしろ、すごくアメリカ的な作品だと思ってるんだけど。そうじゃなかったら、僕らは作らないしね。アメリカっていうのは、疑問を投げかける自由を持った国だ。疑問を投げかけるのは、僕らの権利でもあり、そして義務でもある。この映画はそのために作ったんだから」

 ところで、映画の題名になっている「シリアナ」の意味だが、これはワシントンの政策シンクタンクが使う一種の“業界用語”で、「アメリカの利益にかなう中東の新しい国」という意味だそうだ。そういう国を作ることがアメリカの国益になるとして、対外政策が練られているのだ。地域的にはシリア、イラン、イラク辺りを指すらしいから、現在アメリカは、イラクをシリアナにしようと努力していることになる。

谷口 雅宣

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