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2006年3月20日

ヒト免疫化マウスが誕生

 人間の病気治療の“実験台”としてマウスやラットが使われてきたことは周知の事実だが、動物実験の成功は必ずしも人間への応用を約束しない。それは、人間と動物は(精神的にはもちろんだが)肉体的にも同じでないからだ。例えば昨年10月17日の本欄において、マウスを使った実験で、アメリカの研究チームが受精卵を殺さずにES細胞から神経や臓器等を作ることに成功したことを伝えた。これは、ES細胞研究の主な障害となっていた「受精卵を破壊する」という倫理的問題を解決できる可能性を秘めた重要な研究だが、研究対象がマウスだった点で、あまり大きく騒がれなかった。マウスから人への応用が、それほどスムーズに行かないことを示している。

 そこで、科学者はこの「動物 → 人」への応用をスムーズに行うために、様々の工夫をしてきた。その一つが、人の細胞を動物の体内で培養し、それに対して実験を行うことで研究期間を短縮し、コストを下げる方法だ。このために、科学者は人と動物の細胞が入り混じった混合生物(キメラ)を作製してきた。昨年の4月26日の本欄でその例を挙げたが、過去に於いて人の血液をもったブタ、人の肝臓をもつ移植用のヒツジ、人の脳をもったネズミなどが作られている。また、ブタの心臓など動物の臓器を移植され、今も体内にもっている人間の数は多い。
 
 そして今日(3月20日)付の『朝日新聞』は、九州大学の研究チームが「人の免疫系をもつマウス」を作ったことを伝えている。このマウスは、しかし従来のキメラたちと質的に違うと考えられる。これまでのキメラは、人の組織や臓器の一部を体内にもってはいたが、それに対する拒絶反応を抑えるために、免疫系を破壊されていた。しかし、今回のマウスは免疫系の主要部分そのものが人間のものだから、人の免疫性疾患やガン治療の研究に使えば、人体実験をするのと近い効果が期待できるのである。例えばこの記事によると、ある患者のガン細胞をこのマウスに移植して、抗ガン剤の効き目や副作用を予め調べてから、患者本人へ処方するかしないかを決めることができるらしい。マウスを、患者の体の“延長”として使うということだろう。

 読者はここで、古典的SFである『モロー博士の島』というH・G・ウェルズの作品を思い出さないだろうか。この物語では、生体解剖実験を行ったことで英国を追放されたモロー博士が、追放先の島でブタ、イヌ、サルなどの動物を外科手術によって人間に変える実験を行う。マウスの免疫系を人間のものとすり替えてしまうのと比べると、かなり乱暴な感じがするが、動物を自分の思い通りに作り変えるという点では、あまり違いはないと思う。ウェルズのモロー博士は、しかし作り変えた動物を生かそうとするのに対し、“現代のモロー博士”は、作り変える動物の命を初めから奪うつもりなのだ。ある患者の免疫系をもったマウスは、他の患者の役には立たないから、多分お払い箱だ。動物の死も苦しみも、人間を救うためなら仕方がないと考えているのが分かる。

 これまでの動物実験も皆、同じ考え方で行われてきたのだが、他の動物を人間の目的にだけ利用する技術が進歩することが、人間全体の進歩だと考えるわけにはいかないのである。
 
谷口 雅宣

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