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2006年3月28日

鳥インフルエンザは恐くない?

 本欄では昨年10月8日と11月20日に、鳥インフルエンザの問題を少し書いた。問題の焦点は、鳥をバタバタと死なす強毒性のウイルスが突然変異して、人から人へ感染するタイプになった時の影響だ。世界で2千万~5千万人もの死者が出たと言われる1910年代末のスペイン風邪が引き合いに出され、医療技術が進歩した現代でも「何百万人」もの犠牲者が出るとの予想が世界中を飛び交った。そして、「タミフル」というインフルエンザ治療薬が“有望”とされ、世界中から注文され、製薬会社はフル生産している--そういう話だった。その後、鳥インフルエンザは、鳥に運ばれて東アジアから中央アジアを渡り、ヨーロッパや西アフリカへまで到達した。その途上で、様々な種の鳥に感染しただけでなく、イタチやネコにまでとりついて殺した。人間の犠牲は3月27日現在で「97人」という。

 専門家の間では、この「97」という数字を多いと見るか少ないと見るかで、「悲観論」と「楽観論」に分かれるらしい。悲観論についてはすでに書いたので、今回は楽観論を紹介しよう。

 28日付の『ヘラルド・トリビューン』紙には、これまで鳥インフルエンザによる犠牲者が最も多かったベトナムで患者の治療にあたっているジェレミー・ファラー博士(Jeremy Farrar)の見解が紹介されている。ファラー博士によると、97人という犠牲者数は最近のものだが、1997年以降の犠牲者数を合計すると「186人」だという。博士をこれを「たった186人」と表現する。なぜならこの数字は、アジアの何十億羽もの鳥が何百万人もの人間と接触したすえに出た感染者の数だからだ。この確率を考えると、今回のウイルスが“種の垣根”を越えて人間同士の間に広がる可能性は極めて小さいという。つまり、ファラー博士は、この鳥インフルエンザのウイルスが、人間に感染する形に変異することは大変むずかしいと見るのだ。また、もし仮にこの困難な“種の壁”をウイルスが超えることができたとしても、その変異によって、人に対する毒性は弱まっている可能性があるというのだ。

 今回の強毒性の鳥インフルエンザによる犠牲者は、「鳥のインフルエンザ」が人へ感染したもので、人から人へ感染する「人のインフルエンザ」に変異したウイルスはまだ見つかっていない。そして、「鳥のインフルエンザ」の人に対する致死率は、高く見積もっても「100万分の97」--つまり、0.01%未満である。だから、「鳥のインフルエンザ」に留まっているかぎりは、このウイルスはエイズやマラリヤより恐ろしいわけではない。問題はひとえにウイルスの「変異」の可能性による。ファラー博士が言うには、過去において大量の人がインフルエンザの犠牲になったケースは、先に触れた1918年のスペイン風邪だけであり、これは人類の歴史上きわめて特異な1回きりの出来事だったかもしれない、というのである。

 読者の不安は、これで少しは薄まっただろうか? 今のところは、交通事故に遭わないように気を配ることの方が重要かもしれない。
 
谷口 雅宣

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