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2006年3月10日

人類は進化する?

 前回は、人間の環境への適応について触れたが、生物の生存の可否にとって、環境と同じぐらいに重要なのが遺伝的素質である。人間の環境への適応性は「脳」という臓器の発達によるところが大きいが、その脳は遺伝的な原因が環境の力に“選択”されて現在のような発達を遂げたと考えられる。そこで大きな疑問が湧いてくる。それは、人類は遺伝的に進歩しているかどうかだ。今の人類であるホモ・サピエンス・サピエンスは、先行した人類であるクロマニヨンやネアンデルタールとは脳の大きさや構造などが違うことが分かっているが、今の人類においても、さらに進化する余地が残されているのかどうか。あるいは、進化しつつあるのかどうかという問題は、考えてみる価値はあると思う。なぜなら、それは人類がコンクリートとアスファルトで固めた都市を超えたものを生み出せるか否かという前回の疑問とも関係しているからである。

 こんな疑問に答えるかのように最近、科学者が興味ある研究結果を発表した。それによると、人類は過去1万5千年から5千年の間に、ヒトゲノム中の700箇所で変化が起こっているというのである。これらの変化は、味覚や嗅覚、消化機能、骨格、皮膚の色、そして脳の機能に関するものらしい。そして、こういう変化の多くは、人類が狩猟・漁労・採集による生活を捨てて、5千年前ぐらいに農業を営むようになったことと関係している可能性があるというのである。3月8日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。
 
 もしこの研究結果が正しければ、人類はまだ進化の途上にあり、将来さらに進化する可能性があることになる。心理学、社会学、政治学などの社会科学の分野では、人間の本性は一定だとの前提が暗黙裡にあることが多い。例えば、戦争は“人間の本性”(human nature)にもとづくという考え方が昔からあり、したがって戦争を避けるためには、この“本性”を満足させる一種の“代償行為”--格闘技やスポーツ、狩猟など--を社会が用意する必要がある、などと考えるのである。いわゆる“現実主義者”がこの種の考え方をすることが多く、それが宗教の領域に反映されたものが“原罪”の考え方や“罪悪甚重の凡夫”説と考えられる。簡単に言えば、「人間はいつの時代にも変わらない」という立場だ。

 ところが、今回の研究結果が正しいとなると、環境の側から人間の進化の方向に“圧力”をかけることができることになる。言い換えると、変貌する環境に対してうまく適応できた人間の遺伝子が後世に引き継がれることで、人間はもっと変化することができるということだ。今までの社会科学は、生物学や進化論とは比較的没交渉で発達してきたから、こういう考え方が生まれなかったが、よく考えてみれば、他の生物は皆進化してきたのだから、人類の進化も当然のことかもしれない。しかし、一体どんな方向に進化するのだろう。それを今の時点で占ってみることはできるだろうか? また、そういう人類の進化を促すほどの環境の変化とは、何だろうか?

 私は、地球環境問題が人類進化の契機となる可能性は充分あると思うのである。しかし、そのためには、聖書にある「ノアの箱舟」のような悲劇が起こることを怖れる。つまり、大勢の人類に大変な犠牲が生じた結果、残された少数の人間が新しい考え方にもとづいて“新人類”としての生活を始める--そういう事態にならないことを切に希望するのである。
 
 私があまりにも悲観的だと読者は言うだろうか。しかし、北朝鮮やイラン、イラクでの出来事や、エイズなどの感染症の蔓延、化石燃料をめぐる昨今の大国のエネルギー争奪の動きなどを見ていると、地球環境の危機を見て見ぬふりをする人間の方が、その防止に真剣に取り組む人の数よりも圧倒的に多いような気がして仕方がないのである。快適な都市の生活から離れられない自分も、ひょっとしたら“絶滅危惧種”の一人なのかもしれないが……。

谷口 雅宣

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コメント

 いつも正しいご指導をありがとうございます。
前回の投稿へのコメントも有難うございました。兵庫教区の松尾です。

 本当に科学的観測の結果をみると、悲観せざるを得ない状況なのですね。
 でも、農業が興ったと同時にヒトゲノム中の700箇所の変化があった・・・というのは本当に素晴らしいことですね。
 完全菜食になると、また変化するのでしょうか?

 今回のご文章を読ませて戴いて、AIDSがきっかけで遺伝子の変異が起こるという人類の肉体上の変化のことを噂で耳にしたことを思い出し、あれは本当だったのか?とびっくりしましたが、それとは関係ないことなのですね。

 インフルエンザも、遺伝子レベルでの変異を起すと耳にしたことがありますが、私は去年の冬、病院に行かないので分かりませんが、多分インフルエンザだと思いますが、風邪のような症状が出て、高熱で何日も寝込んだ後、嗜好が変わり、益々健康になり、あまり疲れない体になりました。(菜食(動物性は年数回帰省時)は四、五年前からしていましたが)
 今では、肉や魚の料理を見るだけでも身の毛がよだち、また小食になるのと比例するように益々健康になっています。
 本当に生長の家で教えて戴いている通り、高熱も有り難い恵みと思いました。

投稿: 松尾かおり | 2006年3月12日 00:17

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