人類は進化する? (2)
3月10日の本欄で、「人類は進化の途上にある」という話を書いた。イギリスの科学誌『New Scientist』が3月11日号で、この発見について特集している。それによると、シカゴ大学のブルース・ラーン教授(Bruce Lahn)は昨年、脳の発達にかかわる2つの遺伝子の発生を調べた。すると、1つは6万年から1万4千年前に現れたもので現在、人類の7割が共有しており、もう1つの遺伝子はもっと最近の出現で、1万4千年から5百年前に現れて、まだ地上の4分の1の人類しかそれをもっていないことが分かったという。これらの遺伝子の機能が何であるかはまだ分かっていないが、このようにして調べていくと、過去1万年の間に700以上の人類の遺伝子に変化が起こっていたというのだ。
記事の中に「人間は心で環境を変えてきただけでなく、変えた環境によって考え方を変化させてきた」という話が出てくる。カリフォルニア大学サンディエゴ校のクリストファー・ウィリス教授(Christopher Wills)によると、現代社会では一人がすべてをやれるわけではないから、他人が得意でないことをやることが生存に有利に働く。そういう状況が永く続くと、人類は行動の多様化に向けて進化していくだろうという。
しかし、自然淘汰だけが人類進化のエンジンではない、とニューメキシコ大学のジェフリー・ミラー教授(Geoffrey Miller)は言う。彼の考えでは、人類の進化は“性による選択”によって加速しているという。つまり、移民や異民族間の混血によって遺伝子が急速に混ざり合い、性的に望ましい性質が選択されているというのだ。高等教育の普及、都市化、インターネットによるデートなどを通じて、知性において、性格において、精神や肉体の健康状態において“似たもの同士”が結ばれる可能性が急速に増えており、その中で、生存に有利な新たな遺伝子が固定化される傾向があるとする。生殖補助医療の普及も、遺伝子組み換えも、この傾向に拍車をかけるという。こうしてミラー氏は、千年後の人類は「もっと美しく、知性豊かで、バランスがとれ、健康で、感情的に安定したもの」に進化すると予言するのである。
ここまで来ると、先に触れた『モロー博士の島』の話を出して警告したくなる。科学技術は人類を進化させ幸福を実現するという楽観論が、必ずしも事実と一致しないことは、本欄で何回も取り上げたし、私の著書にも書いた通りである。しかし、交通・通信手段の急速な発達により、人類が今後、遺伝的にさらに混ざり合っていく傾向は否定できないだろう。その場合、“純血種を守る”という考え方が、この大きな流れの中でどのように機能するかという問題は、深く考えてみなければならない。これは、“単一民族”を標榜する日本人にとって避けて通れない大きな問題となるだろうし、現にそうなりつつあると私は思う。
谷口 雅宣
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