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2006年2月 2日

米、エネルギー政策を転換か?

 ブッシュ米大統領は31日の一般教書演説の中で「アメリカは石油中毒だ」(America is addicted to oil.)と認めた。アメリカの時事週刊誌『TIME』は、昨年10月31日号の特集記事に「エネルギーの未来:石油癖をどうやめるか」という題をつけたが、「石油中毒」とまでは言わなかった。産油州テキサスの石油会社出身のブッシュ氏としては、大いなる進歩だと拍手を送りたい。そして、この“中毒物”の輸入先がしばしば政治的に不安定な地域であることが、国の安全保障の問題を引き起こしてきたことも認めた。これは、イラク派兵の理由の一つが石油の供給確保であることを事実上認めたと解釈できる。ただし同演説では、イラクの問題とエネルギー問題を全く切り離して、前者を「圧制の終焉」と「自由の拡大」のために必要な外交手段として演説の前半で擁護し、後者は演説後半に国内問題を扱う中で述べた。

 これによって同大統領は、対外的には伝統的な理想主義の看板を下ろさずに、国内では石油に代わる代替エネルギー開発に力を入れる現実的な路線を明確にした、と見ることができる。この演説からエネルギー政策についての部分を抜粋すると--
 
「我々はすぐれたエネルギーの開発を促進しなければならない。エネルギー省が主導して研究費を約22%増加して2つの分野で成果を上げたい。1つは、石炭火力発電所の石炭燃焼浄化技術開発や太陽エネルギー、風力発電、原子力発電などに予算を傾斜配分する。もう1つは車の動力源を変えることだ。ガソリンと電気を併用するハイブリッド車の開発や燃料電池の開発だ。また、トウモロコシからだけでなく、木屑や雑草などからもエタノールを作れる革新的な技術研究を進め、2025年までに中東から輸入される石油の75%を代替できるようにしたい」

 この演説を受け、2日(英国時間で1日午後10時)に放映されたイギリスのBBCニュースは、トップで「大統領はアメリカのエネルギー政策に大きな転換を求めた」と伝えた。同ニュースによると、アメリカは世界で生産される石油の約4分の1(日量210億バレル)を消費しているが、国内ではその4割しか生産できず、残りの6割を輸入に頼り、輸入の43%は中東を主体としたOPEC諸国からのものだという。これの大部分をあと19年でなくしてしまおうというわけだ。注目すべきは、アラスカ州など国内にまだある新規油田の開発には演説で全く触れなかったことで、これによって大統領のエネルギー政策が石油から代替エネルギーへと「大きく転換」したと評価されたようだ。
 
 エネルギー政策の転換については、ブッシュ政権は今回の演説の“目玉”にしたいと考えていたフシがある。というのは、1日付の『ヘラルド朝日』によると、ホワイトハウスは大統領の演説が行われる前に、エネルギー政策等についてその骨子を発表したからだ。また、大統領自身が事前のCBSニュースとのインタビューで「私は、アメリカが輸入石油に依存していることが経済問題と安全保障問題を生んでいるというアメリカ国民の考えに同意している」と発言し、トウモロコシだけでなく木屑や雑草から作るバイオエタノールの開発を進めたいと述べたという。また、ABCニュースは2日(米国時間1日夜)、一般教書演説を終えた大統領がテネシー州ナッシュビルで、「研究を集中することで、我々は6年以内にガソリンに匹敵する(バイオ)燃料を得ることができると言われた」と発言したことを伝えた。そして、今の政府の計画では、太陽光発電に6800万ドル、風力発電に500万ドル、燃料電池車に5300万ドル、バイオエタノールの生産に5900万ドルを投入する考えという。

 このような予算措置は、もちろん今後の議会での審議を経て決まるものだが、代替エネルギー重視の政策は野党・民主党も賛成しているから、この方向へのエネルギー政策の転換は実現する可能性が大きい。ただし、「代替エネルギー」とひと言でいっても、ブッシュ氏はその中に「原子力発電」も「石炭による火力発電」も含めているから、それぞれへの予算配分の大きさが決まったところで、政策の全貌が見えてくるのだろう。アメリカの政策転換は、日本の産業の動向にも大きな影響を与えるから、私としては原子力や石炭よりも「再生可能エネルギー」(自然エネルギーとバイオエタノール)への重点配分をぜひお願いしたいところだ。

谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 私もブッシュ氏がこの様な演説をしてくれて大変、嬉しく思いました。
 ニュースでは氏の演説内容としてテロとの戦争の事、インドを新たな競争相手と認識する事等が主に強調されてましたから、この事は先生が紹介して下さるまで知りませんでした。

 これを契機に環境問題が少しでも改善して行く事をお祈り致します。

堀 浩二拝

投稿: 堀 浩二 | 2006年2月 3日 10:04

倉山さん、
堀さん、

 アメリカのメディアのこの演説に対する反応は、案外厳しいようです。45分間の演説の間にわずか1分半だけエネルギーについて語り、しかも地球温暖化について何も言わなかった、とか。カトリーナの被害を言わなかったとか……。

 しかし結局「何を言うか?」ではなく「何をするか?」ですからネ。

投稿: 谷口 | 2006年2月 4日 13:25

谷口雅宣先生

 国際部アジア・欧州・大洋州課の阿部哲也です。このブログに初めてコメントさせていただきます。

 4、5年前から英語の学習も兼ねて、米大統領の一般教書演説(あるいは就任演説)を録画して聞くようにしています。毎年1回のこの演説を聞いていると、聞き取れる部分が毎年少しずつ増えているような気がして、この1年間で少しはリスニング力が上がったかも……と、自己満足しています。

 さて、私は今回の演説を聞く前に、先生がブログで紹介されている1日付の『ヘラルド朝日』の記事(ブッシュ大統領が代替エネルギー源の開発を要請)を読んでいたので、今回の演説ではエネルギー問題がさぞかし大きく取り上げられるかと思っていましたら、演説のやや後半部分に少し触れただけ(先生のコメントを拝読してそれが1分半と知りました)だったので、期待していた分だけ肩すかしを食ったような気がしてしまいました。

>> しかし結局「何を言うか?」ではなく「何をするか?」ですからネ。 <<

 演説ばかりに気を取られていないで、その後に「何をするか」を注視しなければいけないということですね。

 それにしても、先生がブログで国際情勢を分かりやすく分析をしてくださるので、毎日ニュースを見たり読んだりするのが楽しくなりました。それれまでは『ヘラルド朝日』を読んでも、一つには読解力の問題もあるのですが、その背景にある出来事や考えが分からなかったので、記事を読んでも分かったような分からないような感じでした。しかし、先生のブログを拝読すると何が問題になっているかを私なりに整理することができ、信仰者としてどういう点に注目すれば良いかなども分かり、これまで点でしかなかったニュースが線でつながったような感覚になることがよくあります。大変遅ればせながら、このブログを通してお導き頂けますことに、心から感謝申し上げます。

 阿部 哲也 拝

投稿: 阿部 哲也 | 2006年2月 5日 17:07

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