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2006年2月28日

イラクはベトナム化する?

 アメリカ占領下のイラクの情勢が混乱の度を増している。先週の22日、バグダット北にあるシーア派の聖地サーマッラで、有名なモスクが爆破されたことに続き、スンニ派への報復攻撃、それへの反撃などが繰り返され、200人を超える死者が出ているという。イラク人同士が激しい武力抗争を始めているため、内戦化の心配が浮上してきた。今日(28日)の『朝日新聞』夕刊によると、イラク国防相は27日までに武装勢力35人を殺害し、487人を拘束したと発表した。

 この状況をごく単純化して説明しよう。イラクには前述のイスラーム2派と、クルド人の3つの政治勢力がある。このうちスンニ派は、イラク国内では少数派だが、サダム・フセイン時代には力によってシーア派とクルド人を支配してきた。これが今、逆転して、シーア派とクルド人の連合で新政権を構成する準備を進めているが、スンニ派をすべて排除した政治は安定性がないなどの理由で、アメリカは3派の“協調政権”を求めている。これに対して、中東のアメリカ支配に反対する勢力(外国人を含む)がスンニ派を巻き込んで武装闘争を行っているのだ。
 
 イラクでの混乱が「シーア派対スンニ派」「クルド人対スンニ派」というような宗派や民族間の対立として見られるようになると、中東全体に影響が出る。なぜなら、中東の国々には、これらの宗派や民族がかなりの数存在し、政治的力をもっているからだ。例えば、イラクの隣国であるイランは、シーア派が多数で政権もシーア派である。しかし、サウジアラビアを含むアラブ各国の多数派と政権の多くは、スンニ派である。同じ信仰の者が窮状にあるのを見て助けたくなるのは、自然な人情だ。だから、イラク国内のシーア派の動きには、イランの影響が大きいと言われる。これに対し、スンニ派政権である他のアラブ各国は、不安をもって注視している。イランがイラクの政治に影響力をもつようになれば、別派である自分たちの立場が弱くなるからだ。イランが核兵器を開発でもすれば、この不安は最高潮に達するだろう。
 
 こういう情勢の中で、中東では“イスラム過激派”と言われる勢力の台頭が顕著である。エジプトではイスラム同胞団が選挙で勢力を伸ばし、パレスチナでは「イスラエル殲滅」を綱領に掲げるハマスが政権を取った。イランのアハマディネジャド大統領も同じく「イスラエル殲滅」を宣言している。同大統領の意図が注目されているが、彼は冒頭に述べたモスクの爆破について、イスラエル、アメリカ、イギリスの陰謀だと非難している。反対勢力であるスンニ派の仕業だとしないところから判断すると、イランの指導力の下に両派を束ねる考えがあるのかもしれない。そんな中でのイランの核開発疑惑であり、モハンマドの風刺漫画への長期にわたる抗議運動である。“反西洋”の旗を大きく振ることで、イスラム諸国のリーダーシップ獲得を目指しているのかもしれない。

 ところで、このような混乱状態にある中東から、アメリカは手を引くことができるのだろうか? アメリカの中東政策と「石油」とは切っても切れない関係にあるが、イラクの石油施設は正常に運転されていない。先日、アメリカの同盟国・サウジアラビアにある世界最大の石油施設が「アルカイダ」を名乗る勢力の攻撃を受けた。アメリカが輸入する石油の1割を占めてきたベネズエラは、反米姿勢を強めるシャベツ大統領が輸出先を「アメリカから中国へ変える」と言い出した。イランが西側諸国に対して強く出られるのは、西側に石油禁輸の意志がないと読んでいるからだ、とも言われている。つまり、禁輸などしたら西側の経済が混乱するからだ。

 昨日(27日)のアメリカのABCニュースでは、かつてベトナム反戦の学生運動の震源地となったオハイオ州のケント大学構内にカメラが入り、当時の学生と現在の学生との態度の違いを放映していた。その中で、「イラクは僕らの世代のベトナムです」と言った学生の言葉が印象的だった。

谷口 雅宣

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