サザンカとツバキ
私の自宅の玄関脇に、2階の天井の高さに達するサザンカの木が立っている--と、最近まで思っていた。しかし、花のことに詳しい妻は、「あれはツバキかもしれない」と言う。その木は今、ちょうど桃色の花を万朶に咲かせて見る人の目を楽しませている。遠くから見ると、玄関脇に桃色の塔が建っているようだ。こんな立派な木の名前を間違えて覚えているのでは申し訳ないと思い、ものの本を調べてみた。するとますます分からなくなった。
サザンカ(山茶花)は、西日本を中心に自生するツバキ科の植物で、晩秋から冬に開花するのが普通だ。だから、俳句では「冬」の季語になっている。これに対してツバキ(椿)は、その漢字を見ても分かるように、春を通じて咲くから「三春」の季語だ。ところがこの2種の植物はきわめて近い種なので、互いに交雑する。その結果、多くの“中間種”が生まれていて、12月から3月頃まで咲く八重咲きのものには「カンツバキ(寒椿)」と呼ばれるものがあり、4月頃まで咲くものの中には「ハルサザンカ(春山茶花)」と呼ばれるものがあるそうだ。
こうなってくると、形態上の違いが両者を分ける決め手になる。一般的には、ツバキは花が一塊になって“首”からポトンと落ちると言われているが、わが家の玄関脇の木は、大抵花がバラバラになって散る。しかし、一部は“首”から落ちるのもある。このツバキの花の特徴は、昔から歌や俳句に詠まれている。ツバキが“首”から落ちる理由は、密生するオシベの元が筒状に繋がっていて、さらにこの筒と花弁の元も繋がっているからだ。構造上、花もシベもガクも一体になっているのだ。この花の“付け根”部分には蜜が溜まっていて、鳥がそれを吸いに来る。そして、ここには雨水も溜まるから、重くなって花全体が丸ごと落ちる。
椿落てきのふの雨をこぼしけり (蕪村)
玄関脇の木は、こういうツバキの花の形態上の特徴をすべて備えているが、花弁は散乱しがちだ。これは恐らく八重咲きのためだろう。--ということで、この花は「八重咲きのカンツバキ」と言えそうだ。ところが、園芸上はカンツバキもハルサザンカも「サザンカ」の中に含めて考えるそうだから、何ともややこしい。「椿らしさ」を認めれば清楚なイメージが湧き、「山茶花らしさ」を強調すれば豪華な印象が残る。
桃色の雪を抱けり寒椿
日溜りや春山茶花の散り敷けり
谷口 雅宣
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント