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2006年2月22日

心が物を動かす

 昨年8月19日の本欄では催眠術が麻酔の代りに病院で使われていることに触れ、心の作用で脳内に測定可能の物質的変化が生じることを述べた。また9月16日の本欄では、いわゆる「プラシーボ効果」は脳内にエンドルフィンが生成されることで起こり、これが脳の痛みに関する領域に作用して強力な鎮痛効果を生むことを示す研究を紹介した。これらの実例は、人間の心と物質との強力な“連絡通路”の存在を示している。心が動くと物質も動くのである。「心が『物』を動かすことを得るは、『物』と心とが全然別物に非ずして、『物』は『心』の痕跡なるが故なり」という『天使の言葉』の一節を思い出してみよう。

『British Medical Journal』の2月1日号には、同じプラシーボ効果でも、プラシーボの種類によって効果の大きさに違いが出ることを示す研究が掲載されている。もっと具体的に言うと、“偽の経口薬”と“偽の鍼治療”のどちらの効果が大きいかを調べたのだ。この研究では、腕に慢性的な痛みを感じる患者270人を対象にして、2段階の実験をした。まず最初に、135人が偽の鍼治療を受け、残りの135人が偽薬を飲んだ。(もちろん、本人たちはそれを本物の治療だと思っている)しかし、両者の間に特に大きな違いは見られなかった。次の段階では、偽の鍼治療と偽薬治療を受けた全員を無作為に半数ずつに分け、この2つのグループの一方には、偽の鍼治療と本物の鍼治療を受けさせ、もう一方には偽の経口薬と本物の経口薬を与えて、それぞれの効果を比べたという。すると、偽の鍼治療の方が偽薬を飲むよりもプラシーボ効果が大きいという結果を得た。

 この研究結果をどう解釈すべきかだろうか。私が思うに……それぞれの治療法に対する患者の側の「信頼感」の多寡によって、それぞれの治療の「効果」に大小の差が現れる、のではないだろうか。つまり、これらの患者には、鍼治療の方が経口薬よりも効果がありそうだと感じられたので、偽の鍼治療が偽の経口薬の効果を上回ったのではないか。もしこういう解釈が成り立つなら、鍼や薬だけでなく、食事についても“プラシーボ効果”のようなものがあるのではないか? つまり、「美味しい」と思って食べれば、あるいは「楽しんで」食べれば、多少のカロリーオーバーや刺激過多であっても、消化機能がフル回転することで体は健康を保てるのではないか?
 
 実は、まさにそういう実験結果があるらしい。2月21日付の『ヘラルド・トリビューン』紙に、スウェーデン女性とタイ女性の2つのグループを使って、なじみのない料理と食べなれた料理の栄養の吸収度を調べた結果を、ハリエット・ブラウン(Harriet Brown)という人が紹介している。それによると、双方のグループに、タイ料理のように香辛料をきかせた料理を食べさせた場合、タイ女性はスウェーデン女性よりほとんど50%も多く鉄分を吸収したという。また、同じ内容のものを柔らかい錬り粉状に料理して食べさせると、タイ女性は辛い料理を食べた時より、鉄分の吸収が70%も少なくなったという。このことから、物質的には同じ内容のものであっても、その料理を楽しんで食べた場合とそうでない場合では、栄養の摂取に大きな違いが出てくることが分かる。

 心の力の大きさは、まだまだはかり知れない。
 
 谷口 雅宣

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