里親制度振興で中絶を防止
福島県が、人工妊娠中絶を考えている人に子を産んでもらい、産まれた子を里親に育ててもらう方針を決定した。県人口の減少を食い止めるための方策というが、生命尊重の気運を盛り上げるためにも大いに歓迎したい。『朝日新聞』が24日の第1面で報じた。
その記事によると、同県では新年度から「里親コーディネーター」を設けて、出産を迷う女性らに里親制度を紹介することで、中絶をやめさせ、人口減をできるだけ防止しようというもの。実際の方法は、県内の産婦人科医院に子育て支援策を紹介するパンフレットを配布し、これを医院を訪れてきた出産を迷う女性に渡す。そして、問い合わせてきた人に児童相談所が詳しい説明を行い、出産後、実際に子育てが困難な場合に里親を紹介する、というもの。
同県の人口は1997年の213万人を頂点にして減り続け、今年1月1日の推計では209万人という。また、同県の女性人口1000人当たりの人工妊娠中絶率は04年度で「15.8」で、全国平均(10.6)を上回っている。この数字から計算すると、同県では年間約1万6千件の妊娠中絶が行われることになるから、里親希望者が県内にそれぐらいの数いなければ紹介しきれない。この点に不安が残る。が、一人でも胎児の命が救われればいいと考えれば、これでも可とすべきかもしれない。
ところで『朝日』は、この考えに批判的な意見を掲載している。恵泉女学園大学大学院の大日向雅美教授の話として、「安心して産み、育てられる環境を整備するとしながら、女性の産む、産まないの選択の自由を含めたライフスタイルが狭められる心配がある」と書いてある。しかし私は、この批判は的が外れていると思う。なぜなら、里親制度が充実してくれば、妊娠中絶をやめて子を産んだ女性は、その子の養育義務を免除されることになるだろうから、従前のライフスタイルを変える必要はない。また、子が生まれて“里子”としてどこかの家庭に受け入れられれば、その家庭が「里親」としての新しいライフスタイルを得ることになると思うからだ。母親は「殺さない」自由を得、受け入れ側も新しいライフスタイルを得る。
問題は、里親希望者が同県にどれだけいるかということだろう。実は専門家の間では、日本で里親制度が発展しないことが問題視されているのだ。その理由は、血縁関係を重視する文化のためとか、ボランティア精神が発達していないからとか、養子縁組と混同されやすいからとか、いろいろ指摘されている。そういう中で敢えて里親制度を利用するのであれば、よほど前準備や検討が必要だと感じる。パンフレットを用意するだけではとても不十分だ。
1990年に関東地方で行われた里親の実態調査では、239人の里親のうち、里父の年齢は50~54歳が最も多く(25.1%)、40~59歳が全体の78.2%を占めた。これに対して里母の年齢は45~49歳がピーク(27.2%)で、35~59歳で全体の88.6%だった。調査時点までに委託を受けた子の数は、「1人」が35.4%、「2人」が16.7%でほぼ半数を占め、「3人」(9.1%)以降は徐々に減るが、「10人以上」という回答も6.2%あった。また、養育の中心となる里母の職業では、「無職・専業主婦」が60.7%を占め、「自営業」13.0%、「常勤」11.7%、「非常勤」6.7%、と続いた。これらの数字から考えると、“団塊の世代”が定年を迎えつつあることや、夫婦の共働き化の進行などで、行政側の努力と国民意識の向上がなければ今後、里親希望者の数が増えていくことは考えにくい。
しかし、里親制度の活用が成功すれば、殺される子を救い、かつ子育てを求める親の希望を叶えるという二重の善行が可能となる。これに加えて過疎化の緩和が実現すれば、他の自治体の手本となるだろう。福島県の健闘をぜひお願いしたい。
谷口 雅宣
【参考文献】湯沢雍彦監修/養子と里親を考える会編『養子と里親』(日本加除出版、2001年)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
かつて、フジテレビで何年か前、里親と里親の元で育てられた子供との実際にあったことを題材としたドラマが放映されたことがあることを
『里親制度振興で中絶を防止』の御文章を読みまして思い出しました。
そのドラマの内容は、里親が育てる子供(血はつながっていない)に真に(本当に)愛情をもって接した時、子供は、その里親をお父さん・お母さんといって慕っていった。という感動的な物語でした。
私は、そのドラマにとても感動し、かつて、副総裁先生の書きこませて頂いたことがありました。
そのドラマを放映したフジテレビのホームページにもそのドラマの感想を書き込むところがあり、そこも当時見てみました。
そこには、ドラマを見て、今までお父さん・お母さんに反抗していたが、これからは、感謝するという、年齢は10代の方の書き込みが幾つかありました。
本当の『愛』を実行すると何時でも何処でも天国が実現するということを思い出しましたので、この度、書き込ませて頂きました。
志村 宗春拝
投稿: 志村 宗春 | 2006年2月25日 20:07
志村さん、
書き込み、ありがとう。
最近は“実の子”を虐待する親もいるのですから、本当の愛は“血”ではありませんね。
投稿: 谷口 | 2006年2月26日 12:55
合掌ありがとうございます。
福島教区の有好正光でございます。
「里親制度振興で中絶を防止」を拝読させて頂きました。御文章の最後に「他の自治体の手本となるだろう。福島県の健闘をぜひお願いしたい。」とお書きになっておられますので、これは早速行動しなければと思いました。
昨日(25日)は相愛会の郡山地区の開拓講演会がありましたので講話の冒頭で、本日は相愛会の地区連の会長会議で、その大要と福島教区の信徒として何ができるかを検討するつもりであることを話しました。来月の上旬には白鳩会の支部長会議が8会場で行われますので、このことを話します。また、青年会、講師会、その他の組織の行事でも、このことを伝えるつもりでおります。4月配布予定の「パンフレット」、その他の情報を入手したいとも考えております。再拝
投稿: 有好正光 | 2006年2月26日 15:49
福島教区青年会の石光と申します。
私もこの里親制度振興を歓迎したいと思います。
福島県は中絶率が全国第2位ときいております。10代が特に高いと。それで性教育を推進するプロジェクトがあります。息子が進学する中学校が指定されています。私などは国会で問題になったようなおかしな性教育は避けてほしいと思っているのですが。県知事さんは
フェミニズムに迎合しているようなフシがありますので。
中絶率の高さに対して、福島県の学力水準は低いです。沖縄に次いでワースト2。合計特殊出生率は沖縄に次いで第2位。これは同居率が高いことによるらしいです。特に会津地方は浜通り、中通りを引き離して高いです。
詳しい事情は存じませんが、以前、施設のお子さんを里親として預かっている方がいらっしゃいました。養子縁組はされませんでしたが、聖使命にいれていらっしゃいました。すばらしいと思いました。
生命が本当に尊重される社会であることを願っています。
投稿: 石光 淑恵 | 2006年2月27日 00:16
有好さん、
素早い反応、ありがとうございます!
生長の家でどう対応するかという問題は、慎重な検討が必要と思います。でも、何かできればいいですね。
石光さん、
興味あるデータの提供、感謝します。
同居率が高いのに中絶率が高い……これをどう考えればいいのでしょうか。フーム……。
投稿: 谷口 | 2006年2月27日 10:57
私の場合、母が1歳半の時、父が10歳の時に亡くなり、近所の未亡人の方が里親となって私を引き取って育ててくれました。自分の養子にしなかったのは、私が成長した時に私の両親、先祖を忘れないためにそうされたんだと、私は信じております。母(里親)はご自分に4人も子供がおられ、全員が中学を卒業されてから私を引き取り、私だけを高校を卒業するまで育ててくれたのです。人間の愛は血だけでは無いと信じている一人ですが、福島県の英断に喝采を送らせていただきます。中絶は殺人です。それも人の命を助けなければいけない医師が殺人を犯しているのです。優生保護法と言う法律は間違った法律であり直ちに廃法にするべきだと思います。福島県も人口削減防止のために人工妊娠中絶を防止するのではなく、生命尊重のために里親制度の基盤を整備すべきだと、里子経験者の私は思うのですが、副総裁先生はいかが思われますでしょうか?(56歳神奈川教区)
投稿: 佐藤克男 | 2006年2月27日 13:53
前回の書き込みで訂正箇所がありましたので謹んで訂正致します。
“副総裁先生の書きこませて頂いたことがありました。”を
【副総裁先生のホームページの掲示板に、書き込ませて頂いたことがありました。】に、
訂正致します。
あわてて書き込みまして変な日本語になってしまいましたことを深く御詫び申し上げます。
志村 宗春拝
投稿: 志村 宗春 | 2006年2月27日 17:38