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2006年1月 7日

エネルギーの政治力

 これからの世界の動きを暗示するような出来事が、新年早々に起こった。メディアの報道などですでに承知のことだろうが、天然ガスの供給をめぐるロシアとウクライナの“鍔競り合い”である。ウクライナは、旧ソ連圏の一員として、ロシア産の天然ガスを国際価格よりかなり安く輸入していた。一種の資金援助である。ところが、ユーシェンコ大統領の登場以降、急速に“西寄り”の動きを始めたのを苦々しい思いで見ていたロシアが、急に優遇価格を撤廃して国際価格に移行するとして、大幅な値上げを求めてきた。ウクライナは、値上げは仕方ないが、もっと緩やかに、段階的に移行してほしいと求めたが、ロシアがこれを拒否、条件が飲めないならば、ガスの供給を止めるといって、本当に止めてしまった。

 そこであわてたのはEU諸国だ。なぜなら、ウクライナはロシアからパイプラインでガスの供給を得ていたが、その同じパイプラインを経由して、EU諸国もロシアから天然ガスを輸入していたからだ。その量もハンパでない。1月5日の『産経新聞』によると、ドイツは国内需要の35%、イタリアは同じく30%、オーストリアにいたっては実に60%もの量をロシアからの輸入に依存している。ロシアは、EUへの供給は減らさないというのだが、同じパイプラインを通っているガスを「ウクライナの分だけ減らす」ことなどできるだろうか? EU側にあるパイプラインのガスの圧力も減り、大いに動揺することになった。結局、両国の交渉は1月4日、ウクライナが現行の「5倍弱」の値上げを飲む形で妥結したらしい。

「らしい」と書いたのは、ロシアとウクライナの交渉結果の細部がまだよく分からないからだ。1月6日付の『朝日新聞』は、モスクワ駐在特派員名の記事の中で、「ロシアが求めていた1千立方メートル当たり230米ドルから大幅に下げ、実質95ドルで5年間ウクライナに供給することで合意した」と報じている。『産経』の報道と数字は違うが、それは、ロシアの独占企業ガスプロムからウクライナ向けとして「230ドル」で第3者に売り、その会社が別の中央アジアルートで来る安いガスと混合してウクライナに供給することで、実質的には「95ドル」になるのだという。これまでは優遇価格で「50ドル」だったものが、約2倍に値上げされることになる。

 ところで、ウクライナが得たこの「95ドル」という価格だが、これに対してルーマニアが自国への価格(270ドル)よりなぜ安いか、と異議を唱えていることを、1月6日付の『産経』は報じた。東欧諸国ではルーマニアだけでなく、アゼルバイジャン(110ドル)、グルジア(同)、アルメニア(同)、バルト3国(120~125ドル)、モルドバ(150~160ドル)等が、ウクライナより高い価格をロシアに支払っているらしい(1月7日『朝日』)。ロシアは「国際価格にしたい」とは言っているが、結局、各国のロシアへの“忠誠心”を天秤にかけて天然ガスの価格を操作する可能性が大きい。このことは、サハリンの石油・天然ガス開発に期待している日本や中国との関係にも言えることだから、エネルギーを武器とした国際政治にロシアが本腰を入れ始めたという認識をもたねばならないだろう。

 さて、EU諸国の反応だが、EUが輸入する天然ガスの約3分の1を、今回の問題を起こしたガスプロム社が供給しており、そのうち8割がウクライナ経由だったことから、ロシア非難の大合唱が起こった。ソ連時代にもガスの供給停止などしなかったそうだから、文明国は「契約を遵守せよ」というわけである。そういう圧力が、今回のウクライナとの交渉の早期妥結につながったと思われる。しかし、ロシアの政治的意図を明確に感じ取った各国では、ドイツで原発廃止見直し論が起こったり、フランスが「第4世代」の原子炉施設の製造に着手することを表明したり、大いに揺れている。とりわけ今年は、ロシアがG8の議長国であるから、その“最初の仕事”として、エネルギーの政治力を先進国全体に誇示して見せたことになる。

 昨年からの石油高騰で、エネルギー資源は、天然ガスや石炭へと世界の需要シフトが起こっているようだ。温室効果ガスの発生源でもあり、減少しつつあるこれらの資源を世界中の国々が欲しがれば、国としては危険を覚悟でその“争奪戦”の渦中に突入していくべきだろうか? 私としては、技術力のある日本こそ、自然エネルギー開発へもっと本腰を入れて進むべきだと考える。それが、どこからも奪わない倫理国家への道ではないか。
 
谷口 雅宣
 

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