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2006年1月 5日

やはりあった米朝の“瀬戸際戦”

 今日(5日)付の『産経新聞』が第1面に、「米、北朝鮮に武力行使警告」という6段抜きの記事を載せている。それを読んで、昨年5月末の本欄「朝鮮半島は“キナ臭い”?」の見方が正しかったことを知った。私はその日の『ヘラルド朝日』紙の2本の記事から、米朝間で軍事衝突に発展する恐れのある緊張状態が起こっているとの認識をもったのだが、日本の新聞各紙があまりに平穏無事の記事ばかり載せているのを訝しく思ったのだった。『産経』の今日の記事は、その周辺事情について「アメリカは昨年4月22日、北朝鮮に対して6ヵ国協議が崩壊すれば軍事行動を含む他の選択の準備をせざるを得ないとのメッセージを伝えた」と説明している。

 外交において「メッセージを伝える」という意味は、単に言葉でそれを言うだけでは足りない。言葉で言ったことを、現実の行動によって裏打ちするのでなければならない。また、言葉で伝えるときにも、正式な外交ルートを使うのか、“密使”のような秘密ルートを使うのか、マスメディアを介するのか、政府高官に言わせるのか、大統領自身が言うのか……等の別によって、深刻度のニュアンスが違ってくる。同記事によると、この時の米側のメッセンジャーは「北朝鮮に太いパイプをもつワシントンの朝鮮半島専門家」であり、この人が「国務省の“特使”としてニューヨークの北朝鮮国連代表部に派遣された」という。これは言わば“密使”ルートである。その言葉を裏打ちするために、「米国がレーダーの電波に捕捉されにくいF-117戦闘機を在韓米軍に派遣するなどして軍事行動の準備が真剣であることを示した」らしい。その結果、北朝鮮側は4月末に条件つきで6ヵ国協議復帰に応じる考えを伝えてきたというのである。

 しかしこれだけでは、当時の緊張感は伝わりにくい。私の上掲の記事には、F-117戦闘機の数は「15機」だとあり、それ以前に米側は「訓練」と称してグァムの基地にB-2ステルス爆撃機やF-15E戦闘機を飛行中隊(squadron)規模で派遣したことにも触れている。B-2爆撃機の航続距離は、グァム島から朝鮮半島まで充分にカバーする。また、この特使派遣に先立ってアメリカは、北朝鮮で9年間続いていた米兵の遺骨収集活動を突然中止していた。これは、国交のない北朝鮮からの米国人一斉引き揚げであり、「戦闘開始の前触れ」というメッセージを読み取れる。そして、これだけの実際行動を示した後に、ブッシュ大統領は4月27日に海軍士官学校へ行き、「この新しい戦争の時代には、我々は国家でなく政権を狙い撃ちにすることができる。それは、テロリストや圧政者が、もはや罪のない国民の背後に隠れていることはできないという意味だ」と演説したのだった。
 
 北朝鮮へのメッセージの伝達がこれだけ大規模で、明確だったにもかかわらず、日本のマスメディアは察知し得なかった。それとも察知していながら、「世論を刺激しない」ことを配慮して報道しなかったのだろうか? 軍事情報に詳しい『産経』からして今ごろになって(しかも、ワシントン駐在記者の名前で)それを言うのは、前者だったことを暗示しているようだ。なぜなら、アメリカの武力行使があった時の日本への影響が重大なことは明らかだからだ。換言すれば、日本全体に重大な影響があることを報道しないことは、ジャーナリズムとして許されないからだ。

 私の“古巣”でもある『産経』について厳しいことを言ったので、その“宿敵”の『朝日』にも苦言を一つ。『朝日新聞』はニューヨークタイムズと共同で『ヘラルド朝日』という英字新聞を出している。その英字タイトルは『International Herald Tribune--Asahi Shimbun』である。それならなぜ、『朝日』の国際面担当記者や担当デスクは、この英字紙をよく読まないのか? すべての記事を読めとは言わないが、日本との関係が深い記事ぐらいは目を通してほしい。それでなければ何のための提携だろう? それとも、『ヘラルド朝日』紙を発行した目的は、国際情報は『朝日』ではなくニューヨークタイムズから得てくれ、という意味なのだろうか。
 
谷口 雅宣

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