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2006年1月17日

女性の素晴らしき発展

 こんな題をつけると「おまえはフェミニストか!」と一部から言われるかもしれないが、今日(1月17日)の新聞を眺めると、どうしてもそんな印象をもつ。世界の各地で女性政治家が国の最高責任者になりつつある。南米チリで初の女性大統領となったミッチェル・バチェレ氏(Veronica Michelle Bachelet Jeria)、西アフリカ・リベリアでアフリカ初の女性大統領となったエレン・サーリーフ氏(Ellen Johnson Sirleaf)、そしてドイツ初の女性首相、アンジェラ・メルケル氏(Angela Merkel)が、国際ニュースに揃って登場している。おまけに、16日に行われたリベリア大統領の就任式には、アメリカの大統領夫人、ローラ・ブッシュ氏と女性国務長官、ライス氏が出席して、国際政治の表舞台への“女性進出”をはっきり印象づけた。

 もしかしたら「女性進出」という言葉は政治的に正しくない(politically incorrect)のかもしれない。なぜかというと、人によっては「進出」という言葉の中に「出るべきでないところへ出る」というニュアンスを読み取る可能性があるからだ。しかし、私はこの語をそういう意味で使っていないことをお断りしておく。それよりもむしろ、変転きわまりない現代に於いては、世界や国家の運営には、従来考えられなかったような多様な能力が求められているのであり、それに適するような経験と教育(広義での)を得た人がたまたま女性であった、というのだろうか。言い方を変えれば、従来の男性による伝統的政治手法だけでは解決の困難な様々な問題--例えば、人権や環境、人口問題--を解決することの優先順位が高まっている、とも言えるだろう。
 
 現時点では、リベリアのサーリーフ新大統領(57)のデーターは多く入手できない。ただ彼女は、国連開発計画(UNDP)の元アフリカ局長で、米ハーバード大学を出た後、銀行に勤め、政治犯として2度捕らえられた経験をもつという。私は今、南米にいるので、今日付の『International Herald Tribune』紙などをもとにチリの新大統領の横顔を紹介しよう。

 バチェレ氏は私と同年齢の54歳。同国の元国防相で、小児科医でもある。父親のアルベルト・バチェレ将軍は、1974年のクーデターによる軍政下で拷問により獄死し、娘のバジェレ氏自身も母親とともにピノシェ政権に捕らえられ、拷問を受けた経験をもつ。バチェレ氏はチリのサンチャゴで生まれたが、11歳の時、軍属だった父親のワシントン赴任にともなって渡米。そこで人種差別やケネディー暗殺事件を体験し、1年後に帰国。60年代世代の文化の影響下、ビートルズやベトナム反戦運動に触れ、従兄妹と組んでフォークソングのデュオを結成、ジョーン・バエズやボブ・ディランの曲を歌ったという。チリの大学では父親の勧めで医学を専攻した。

 父親が捕らえられた時、彼女は22歳、母親とともに解放されたのは24歳の時。その後、独裁政権による国外追放のため兄がいたオーストラリアへ逃れ、数ヶ月で東ドイツのポツダムへ渡った。しばらくそこで母親と生活した後、バチェレ氏は東ベルリンの大学へ移って医学の勉強を続けた。28歳の時にチリに帰国し、そこで医学を修めて小児科医となる。1990年に独裁政権が倒れると、保健省の顧問となるが、1996年にはチリ国立防衛大学へ進み、翌年にはアメリカの防衛関係大学へ移った後、チリに帰国して国防省職員となる。2000年には保健相、2002年にはチリ初の女性国防相となった。

 なかなか波瀾万丈の半生を生きた人だと思う。経歴からいって英語、ドイツ語も堪能に違いない。父親が長く軍属にあった影響で軍事にも関心が深く、ついに国防省までつとめた経験は大統領として貴重なものだろう。また、医学への傾倒は、この人の科学への関心と人間への愛情を感じさせる。軍政下で拷問を受けたという経験でさえ、彼女の意志の力を鍛え上げたとすれば、無駄なものではなかったのかもしれない。

 ところで、ドイツのアンジェラ・メルケル首相だが、上掲紙の記事によると、16日にはモスクワでプーチン大統領と会談し、前任者のシュレーダー首相とは「かなり違ったトーンを打ち出した」そうだ。メルケル首相はロシア語に堪能で、プーチン氏はドイツ語が上手だというから、コミュニケーションに問題はなく、3時間の会談と昼食をともにしながら、しかし話の内容は、「シュレーダー首相がプーチン氏に持ち出すことをためらってきた難問をいくつも取り上げた」らしい。その中には、7日の本欄で書いた天然ガスの価格交渉をめぐるロシアの強硬策もあり、首相は「ロシアは、ヨーロッパのエネルギー需要を満たしてくれるパートナーとしては、信頼性を失わせる危険を冒した」と、はっきりと言ったという。また、ウクライナの問題についても、かなり突っ込んだ議論をしたようだ。彼女に言わせると、ドイツとロシアは“戦略的パートナー”としての新しい関係に入ったのだという。
 
 優秀な女性が政治をしているというよりは、優秀な政治家がたまたま女性なのではないだろうか。
 
谷口 雅宣

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