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2006年1月30日

政治が科学を抑えている?

 21世紀の時代にあって、科学者が政治的圧力によって自分の研究結果やそれにもとづく信念を公表できない国があるとしたら、それはどんな国だろうか? 自由主義や基本的人権の考え方が充分に育っていない旧社会主義国か、あるいは宗教的支配が強いイスラム原理主義の国か……と考えがちだろう。しかし驚くなかれ、アメリカ合衆国がそれだと言って非難する科学者が出た。それも、NASA(航空宇宙局)の気象科学者がそう言ってブッシュ政権を批判しているのだ。NASAの下部組織であるゴッダード宇宙学研究所(Goddard Institute for Space Studies)の所長を長くしているジェームズ・ハンセン博士(James Hansen)は、自分の講演原稿、発表論文、同研究所ウェッブサイトへの書き込み、さらにジャーナリストからの取材依頼をNASAの広報担当部門がチェックするよう命令されたとして、抗議の声を上げている、と30日付の『ヘラルド朝日』が伝えた。

 さらに物議をかもしそうなのは、ハンセン氏は気象学者として1988年以来、地球温暖化の危険を訴え続けてきた一人だからだ。彼は2001年には、チェイニー副大統領その他の閣僚の前で2回、温室効果ガスの排出による気象変動についてのブリーフィングを行っている。しかし、2004年に、アイオワ大学で行った講演の中で、「政府の気象学者は口止めをされている」と不満を漏らしてから、ブッシュ政権から白い目で見られるようになったらしい。『ニューヨークタイムズ』が最近、ハンセン氏から何度も取材した結果、それを記事にしたものの一部が『ヘラルド朝日』(ニューヨークタイムズと朝日新聞の共同発行)にも掲載された。

 記事の中では、NASAの高官はもちろんこのことを否定している。広報担当官のディーン・アコスタ氏(Dean Acosta)は、ハンセン氏に適用される制限は、NASAの意見を代表すると見なされるすべての職員に平等に課せられているもので、科学的知見について議論することは何ら制限されていないとはいえ、政策にかかわる事項は政策決定者とそのスポークスマンを通じて発表されなければならない、というのである。また、ジャーナリストからの取材申し込みを広報部門に報告することは、情報の流れを秩序づけて予想外のハプニングを防ぐためだという。そして、この方法は地球温暖化という特定の問題や特定の人物に限定して行っているのではなく、「局内の協力体制の問題だ」というのである。

 ハンセン氏はこれに反論し、このような手続きが行われているため、国民は気象変動についての最近の発見の意味と、この先の危険について充分理解していないのだ、と言う。そして、「国民とのコミュニケーションが大切なのは、恐らく国民の関心だけが、この問題を見えなくしてきた特定の利害関係者の力を抑えることができるからだ」と言っている。

 読者はどう感じるだろうか。本欄ではすでに何回も書いてきたが、現在のアメリカ合衆国政府は、地球温暖化の危険を否定しないまでも、重要視していないことは事実だ。それよりも、将来にわたって化石燃料の供給源を確保しておくことが重要だと考え、アフガニスタンや中東へ派兵しているし、自然エネルギーへの転換よりも、原子力発電への再投資を推進している。日本政府も、このブッシュ政権の方向を横目で見ながら、全面的に追随しないまでも、一部でマネをし、自然エネルギー利用に関しても遠慮しているのか、あまり前へ進んでいない。私は、ハンセン氏のような科学者が怒りの声を上げるのは無理もないと思う。そして、日本の科学者がハンセン氏のように声を上げないのを、不思議に思う。

谷口 雅宣

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コメント

倉山さん、

 ふーむ、そうかもしれませんネ。
 学問は、お互いに切磋琢磨ですから……。

投稿: 谷口 | 2006年2月 2日 16:35

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