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2006年1月25日

動物の個性

 前日の本欄で The New York Times Magazine のことを書いたが、これはニューヨーク・タイムズの日曜版に挟まれて入ってくる週刊誌である。発行日は、ブラジルでの教修会当日の22日だ。表紙の写真は、白のワイシャツに緑色のベストを着てネクタイを締めたロバが、腰に両手を当て、耳を立てて読者を睨んでいる。モンタージュ写真に違いないが、一見ゾッとする迫力がある。雑誌の中を開くと、三つ揃いを着てポケットに手を入れてニッと笑うブタとか、ブラウスの肩をすくめ、口をヘの字に曲げたヒツジの写真も出てきた。単なる悪趣味かと思っていたら、そうではなく、「The Animal Self」という題の10ページ以上もある特集記事を飾る写真だった。記事は、これらの写真が示すように、「動物にも個々の性格がある」ことを科学者が発見していると伝えていて、興味深く読んだ。

 私は、心理学の中に「動物パーソナリティー」(animal personality)という小分野があることを知らなかった。これは、動物のもつ性格や個性について研究する分野だそうで、「人間のもつ行動上の性格は、程度の差や幅の違いはあれ、すべての生物種を通じて存在している」ことを発見しつつあるそうだ。ちょっと待ってくれ、と言いたくなる。イヌやネコやサルならともかく、「すべての生物種」ということになると、植物にも、菌類にも、軟体動物にも、性格があることになる。科学者たちは、人間以外の生物を研究する際、「擬人化」(anthropomorphism)のワナに陥らぬように注意するとは聞いていたが、この心理学上の発見は、擬人化(動物も人間と同じようなものの見方、感じ方をすると考えること)は正しいと言っているように聞こえる。

 従来の心理学では、動物が個性をもたないことの理由として、動物には「自己」の意識がないから、自らの経験や感情や行動を振り返って反省し、あるいは心の中で自分と論争することもなく、したがって人間ならばそういう過程を通じて形成される「性格」というものを持ちようがない、というものだった。しかし、あるガチョウが、いつも、どんな場合でも、別のガチョウとは違う行動の仕方を示すならば、自己意識があろうがあるまいが、それをそのガチョウの「性格」として考えることは、何が不都合なのか? と考える人が出てきたという。この人は、サム・ゴスリング(Sam Gosling)というイギリス人で、動物性格研究所(Animal Personality Institute)という研究機関を最初に設立した人だそうだ。この人は、UCB(カリフォルニア大学バークレー校)で飼われていた34匹のハイエナに対し、4人の飼育係に人間に用いる性格分類法を少し変えて、「興奮しやすさ」「社交性」「好奇心の強さ」「自己主張度」などを、それぞれ別々に評価してもらった。すると、4人の結論はよく似たものになったという。つまり、ある程度客観的な性格判断が可能だったというわけだ。

 この記事には、動物の性格を思わせるような様々な実例が出てくるが、私にはオオダコの例が面白かった。軟体動物は、動物の中でも“低級”と見なされるようだが、シアトルの水族館に飼われているオオダコは、名前で呼ばれるという。それぞれが特徴のある行動をとるからだ。餌を食べる時いつも岩陰に隠れている恥ずかしがりやの雌もいれば、訪問者に腕を伸ばして巻きつこうとする雄もいるし、雌ダコでも夜中に水槽内をかき回して、底の岩を動かしたり、水のフィルターやナイロンのケーブルを食いちぎったりするのもいる。また水槽内を清掃されるのを特に嫌う雄ダコもいて、清掃用具をつかんで全身が赤くなるまで放さなかったり、別の雄ダコは、ある特定の女性研究者が水槽内を懐中電灯で照らすのが嫌いで、彼女に水を吹きかけてビショビショにしたそうだ。

 本欄では、ネズミが歌う話を紹介したが、笑うネズミも、数をかぞえるオウム、互いに顔を識別するヒツジもいるそうだ。そう言えば、私が飼っていたブンチョウも、それぞれが特徴ある行動を示していたのを思い出す。「新奇性を好む」方向に働く遺伝子もあるというから、それが動物と共有されていれば(遺伝子には“種の壁”はないから)、「冒険好きのブンチョウ」がいてもおかしくないことになる。しかし、そういうものを「個性」とか「性格」と同じものと見ていいのだろうか? もし、生きている動物に個性があるなら、動物の霊にも個性があることになる。これでは宗教上、少しややこしいことにならないか……など、様々な思いが心を過ぎった。

谷口 雅宣

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