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2006年1月24日

ニューヨークで本を買う

 サンパウロから8時間余をかけてニューヨークに着いた。JFK空港からマンハッタンまで交通渋滞に巻き込まれたが、『The New York Times Magazine』(1.22.06)を読みながら時間を過ごした。マンハッタンは42丁目のグランド・セントラル駅に隣接したグランド・ハイアットにチェックイン。その後、活気に満ちたNYの朝のビジネス街を、妻とのんびり歩いた。ここへ来た目的の一つは本を買うことだったので、地図で見つけた5番街48丁目のバーンズ・アンド・ノーブルという大手書店へ向う。が、そこより手前の46丁目の角にも支店を見つけたので、そこへ入った。
 
 この書店は2階にカフェがある今流行のタイプで、何冊もの本をテーブルに置き、読みながらのんびりしている客もいる。これだったら、調べ物だけして本を買わずに済ませることもできるが、店としてはそれでもいいのだろう。カフェ以外の店内のあちこちにも椅子が用意されているのは、同じ“寛容さ”を示している。日本にも、これと似たタイプの書店が増えてきているから、きっとカフェなどない従来型の書店と売り上げを比較して得た結論なのだろう。本好きの私としては、ありがたい傾向である。
 
 結局、1時間半ほどかけて5冊の本を買った。内訳は、
①Daniel C. Dennett, Sweet Dreams: Philosophical Obstacles to a Science of Consciousness (Cambridge: The MIT Press, 2005)、
②Khaled Abou El Fadl, The Great Theft: Wrestling Islam From the Extremists (New York: Harper-Collins, 2005)、
③Robert Baer, See No Evil: The True Story of A Ground Soldier in the CIA's War on Terrorism (New York: Three Rivers Press, 2002)、
Socrates (New York: Barnes & Noble, 2004)、
Walden (New York: Barnes & Noble, 2004)、である。

 ①は、アメリカの哲学者の近刊本だ。実は、この人の本は空港からホテルまでの時間に読んだ上記の雑誌に、最新刊として、Breaking the Spell: Religion as a Natural Phenomenon という本が紹介されていたので、それを買うつもりだった。ところが書店の人に聞くと「来月の初めに入庫する」というので、別のものにした。本のカバーの説明によると、この本は1984年から1996年にかけて著者が雑誌に発表した文章をまとめたもの。著者、ダニエル・デネット氏は、最新の神経科学の知識を駆使して「意識とは何か」「心とは何か」の問題を哲学的に探求している人で、私も著書の中で引用したことがある。1991年に出した Consciousness Explained という本は邦訳がある。

 ②の著者は、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)法律学校のイスラム法教授で、現代の過激なイスラームであるワッハーブ派に対する有力な批判者の1人。今日のジャーナリズムでは、イスラームの“過激派”をめぐる報道は数多くあるが、多数派である“穏健派”の声を聞くことは少ない。しかし、世界中にいる10億を上回るイスラーム信仰者にとって、この教えは精神の平穏と倫理・道徳の源泉としての役割をはたしている。本のカバー袖の説明によると、現在イスラーム世界の中では、この少数の過激派と多数の穏健派との間の対立が激化、互いに対立する2つの世界観が生まれており、かつてのヨーロッパの宗教改革にも匹敵するような大きな変化を遂げようとしているという。この本は、イスラーム法にもとづく穏健派からの過激派に対する批判であり、イスラームの倫理的伝統を再提出する試みである、という。
 
 ③は、ブッシュ政権の“テロに対する戦争”の最前線にいた元CIAベテラン諜報員の回顧録で、ニューヨーク・タイムズのベストセラーになったもののペーパーバック版である。著者は、1976~97年にCIAで働き、イラク、ダシャンベ、ラバト、ベイルート、ニューデリーなどに駐在、その優秀な活動によって1998年にはCIA内で表彰されている。本の表紙にある説明では、著者は中東における過激派の動きを察知し、その脅威を除くようワシントンに進言したが、それが受け入れられなかったため、ビン・ラディンやサダム・フセインの立場が一層強固なものとなり、ついに9・11へと発展したことを訴えているらしい。
 
 ④と⑤は、既刊本のコンパクト・ハードカバー版である。「愛蔵版」という表現の方が正しいかもしれない。日本の新書判の左右を少し拡げたような判型で、三方金の上製本でありながら、1冊6ドルと安い。④はプラトンの著作からソクラテスの思想をよく表したもののアンソロジー。⑤は言わずと知れたアメリカのナチュラリスト思想家、ヘンリー・D・ソローの代表作である。邦訳の文庫本をもっているが、それとは比較にならない重厚さに惹かれて、ついに買ってしまった。バーンズ・アンド・ノーブル社は書店経営だけでなく、この種の出版もしている。著作権の切れた著者のアンソロジーや復刻版である。こういう凝った本を手にすると、電子出版とは異なる「本」の良さをしみじみと感じるものだ。

谷口 雅宣

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