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2006年1月31日

政治が科学を抑えている? (2)

 前日の本欄で、肝腎なことを書き漏らした。それは、政府から地球温暖化の危険について自由な意見表明を抑えられていると抗議したNASAのジェームズ・ハンセン氏が、一体どんな意見を具体的にもっているのかという点である。前日のブログで『ニューヨーク・タイムズ』の記事にリンクを張ったので、それを読んだ方はお分かりと思うが、ハンセン氏は、「地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出を相当削減しなければ、気象変動が次々と起こって、地球はそのうち“違った惑星”になってしまう」と言ったというのだ。これは、昨年12月6日にサンフランシスコで行われたアメリカの地球物理学会の集まりでのハンセン氏の発言で、同氏はこの「相当の削減」は「とりわけ自動車については」今存在する技術で行うことができる、と言ったという。
 
 同氏は、これに続く15日には、2005年が少なくともこの100年間で最も暖かい年になることを示すデータを発表した。すると、NASA本部の高官が広報担当官に何度も電話して来て、その種の発言が今後も続くならば「深刻な結果」になることを伝えてきたという。『ニューヨーク・タイムズ』の記事には、そう書いてある。

 ところで、昨年の12月の初めには何が行われていただろうか? 当時の本欄を見ていただけば分かるが、カナダのモントリオールでは、2013年に期限切れを迎える京都議定書の後に、温暖化防止をどう進めるかという同議定書締約国による第一回会合(COPMOP1)が開かれていた。そして同11日には、締約国は来年5月から開かれる特別会合で「13年以降に空白期間が生じないようなるべく早く検討する」とだけ合意した。日本は、世界最大の排出国・アメリカをこの枠組みの中に引き入れようと努力したが結局、アメリカは「イエス」と言わなかった。そんな時期に、NASAの筆頭気象科学者が「今年は100年間で最も温暖化したようだ」などと発表したわけだ。また、今存在する自動車技術で温室効果ガスを「相当削減」できるのは、言わずと知れたハイブリッド技術である。が、そんなことをNASAの科学者が言えば、アメリカの自動車会社(いずれも、最新モデルで同技術の搭載を余儀なくされた)の危機が深まる。
 
 ブッシュ政権にとって「温暖化の証拠」を直接提示されたり、間接的にでも「政策の誤り」を見せつけられるのはたまらない--ブッシュ氏本人がそう思ったかどうかは別として、周囲の人々が“膝元からの反乱”に神経質に反応したことは充分考えられると思う。

 ところで、公務員であるハンセン氏が職を失う危険を覚悟で言わなくても、アメリカを走る自動車から出る温室効果ガスを劇的に減らす方法については、アースポリシー研究所のレスター・ブラウン氏(Lester Brown)が本に堂々と書いている。今年発行されたばかりの彼の著『Plan B 2.0: Rescuing a Planet Under Stress and a Civilization in Trouble』(New York: Earth Policy Institute, 2006)の中には、自動車から出る二酸化炭素を「85%」も減らせるとして、次のような方法が紹介されている--①自動車を改良ハイブリッド型にする、②改良ハイブリッド型には、現在の内蔵電池のほかに予備電池を入れて、家庭の電源から充電する、③風力発電設備を大幅増設し、家庭への送電線につなげる、④風力による夜間電力を自動車の予備電池に充電する、⑤近場の運転は予備電池で行い、遠出の時だけガソリンを使う。

 私は、この方法は充分現実味があるので、日本でも検討してみるべきだと思う。

谷口 雅宣
 

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コメント

谷口 雅宣 先生

ブッシュ大統領の一般教書演説では、エネルギー対策として、何故か「coal research」に予算が多く組まれていました。http://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/01/20060131-6.html

私には複雑な政治的戦略のことはよく分かりませんが、環境問題への取り組みというよりも、安全保障のための取り組みのようです。でも、結果としてアメリカの環境問題への取り組みにつながっていくのでは、と期待するのは楽観的すぎるのでしょうか?

メイ 利子 拝

投稿: メイ利子 | 2006年2月 1日 22:48

以下、自転車派の意見です。
▼エコ発電の推進には賛成。しかし、大規模風力発電については、バード・ストライクの懸念から、反対したい気持ちです。参考→
http://homepage3.nifty.com/sapporo-wbsj/essay/essay0504.html
▼風力に限らず「僻地で大規模発電をおこなって都市へ送る」というシステムでは、結局のところ、現在のいびつな社会構造を延命させるデメリットが大きいような気がします。
▼マイクロ水力・マイクロ風力・太陽光といった「そこに流通しているエネルギーを、その場で電力に変えて使う」タイプのものは好ましい。都市ガス式燃料電池のように化石燃料を使うにしても、ともかく長距離・大規模送電システムを前提しない方が、長期的にみてハッピーなのではないか、という印象です。(「時間的な距離」を考えると、化石燃料は数億年前の遠距離エネルギーの利用。原子力は数十億年前という、まさに天文学的過去のエネルギーの利用です)
▼ハイブリッド自動車については、モーターの性能さえ許せば、エンジンを駆動系から切り離して「発電専用」にしたらいいのではないかと夢想しています。出力調整を前提せず、理想的な回転数に固定すれば、おそろしく効率のいいエンジンができるはずです。エンジンで発電・蓄電し、完全モーター走行。
▼わが国では、とりあえず、たとえば3000cc以上のクルマ(自家用車)には重税を課すといった方策が必要ではないかと思っています。ともかくクルマは多すぎます。
▼電力や自動車関連産業の人たちの雇用を確保しつつ、いかに規模縮小を図っていくかが課題だと思います。

投稿: 松永 | 2006年2月 1日 23:20

谷口 雅宣 先生へ

 レスター・ブラウン氏が紹介している、内蔵電池に予備電池を入れた改良ハイブリッド車は米国ではすでにトライされているようです。その名は“プリウス・プラス”
私もこんな車があれば買いたいです。自宅の太陽光発電で充電し、休日に近くのスーパーに買い物に出かける。ガソリンは使わない。そんなことも可能になりそうです。
□ 改良ハイブリッド車のサイト→ http://www.calcars.org/

山岡 睦治  拝

投稿: 山岡 睦治 | 2006年2月 2日 08:13

メイさん、

 一般教書の評価については、2日付で書きました。大統領は「環境対策」と言わなくても、実質的にはそれをしていると思います。環境・資源は切り離せないということでしょう。

松永さん、

 巨大風車がお嫌いでしたら、自家用風車はいかがでしょうか。私も太陽光発電を取り付けた後は、小型の風力発電装置を付けたい気持ちです。

山岡さん、

 プリウス・プラスの話、有難うございました。
何だか楽しくなってきましたネ。

投稿: 谷口 | 2006年2月 2日 17:53

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