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2005年12月29日

プリオン病の行方

 アメリカ産牛肉の日本への輸入が条件付きで認められたが、狂牛病(BSE)の危険が全くなくなったわけでないことは、多くの専門家が認めるところだ。牛自身の肉骨粉を牛に与えるという“悪習慣”は改められただろう。また、ある年齢以下の牛にはBSEが発病する確率が少ないという統計的なデータから考えて、その若い牛で、しかも脳神経系の細胞が多く含まれていない部位の肉なら「比較的安全だろう」という判断から、輸入にゴーサインが出たのである。日本政府のこの判断には、アメリカからの政治的圧力が影響していることは言うまでもない。これらの判断の基礎には、BSEの病原は“異常プリオン”と呼ばれる蛋白質だけからなる物質だ、との前提がある。しかし、この前提については、まだすべての科学者が合意に達しているわけではないらしい。

 12月16日発行のアメリカの科学誌『Science』(Vol.310 No.5755)は、現時点での科学者の見解をまとめているが、この“異常プリオン”については分からないことがまだ多くあると書いてある。私は『今こそ自然から学ぼう』(生長の家刊、2002年)の中でBSEについて少し詳しく書いたが、その時、BSEに似た病気が牛や人間だけでなく、ヒツジ、ミンク、シカにも発症することに触れ、それらを総称して「プリオン病」という言葉を使った。この用語も、BSEその他の類似の病気の原因が“異常プリオン”だとの前提に立っている。しかし、これらの病気の「原因がプリオンであるかどうかは、まだ科学的に確定していない」(p.170)とも書いた。その後すでに3~4年が経過した。多くの科学者は、細菌でもウイルスでもなく、生命のない蛋白質が感染症の病原になるという新しい考え方に同意しつつある一方、論争はまだ終息していないようだ。

 しかし、BSEの犠牲者が(少なくとも現時点では)当初の予測より大分少なかったことは特筆に値する。BSEの感染によるとされる変異型クロイツフェルト=ヤコブ病(vCJD)による死者は、最も犠牲者が多いイギリスで2000年に28人だったのをピークに、年々減少し、2004年にはわずか9人だった。vCJDによる死者はイギリスではこれまでの合計で153人であり、他国での死者は合計で20人未満だ。私が『今こそ……』の中で「今後50~60年に予測される患者数」として紹介した「13万6000人」という最悪の試算は、大きく外れたと言っていいだろう。その最大の理由として、『Science』の記事は、1988年に脳を含めた牛の肉骨粉を牛に与えるのを禁じたことを挙げている。これによって、イギリス国内のBSEの発生件数は1993年から減少に向かい、昨年は343件、今年は11月までに151件となった。ということは、この“共食い”の悪習がBSEの原因であった可能性を有力に示している。

 では、“共食い”がなくなればもう安心だろうか? 次の3つの問題を、科学者は警戒している--①ヨーロッパでヒツジのプリオン病であるスクレイピーの新種が発見されたこと、②アメリカでシカのプリオン病であるCWDの感染が拡大していること、③BSEの発症のピークからvCJDの発症のピークまでの期間が短いこと。①と②については、これまで直接の人間への感染例は発見されていない。③は、人間から人間に感染するプリオン病の一種であるクールーの潜伏期間が「12年」であるのに対し、BSEのピークからvCJDのピークまでの期間が「10年足らず」と短いことを指す。プリオン病が“種の壁”を越えて、別種の動物(この場合は牛から人間)に感染する際、潜伏期は長くなるのが普通であることを考えると、vCJDのピークはこれからだと考えることもできるらしい。

 そういうわけで、プリオン病の行方はまだ未知数の部分が多い。その最大の理由は、単なる物質であるプリオン蛋白質が、どうやって動物から人間に感染し、死にいたる病を起こすかというメカニズムの細部がまだ解明されていないからだ。vCJDについては血液から感染したと思われるケースも発見されているから、安心できる状況ではないだろう。私としては、宗教的理由からも、エコロジーの視点からも、肉食をできるだけ減らす生き方をお勧めする。
 
谷口 雅宣

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