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2005年12月27日

暴力ゲームから子供を守ろう

 「ゲーム脳」という言葉を使って、テレビやパソコンのゲームに熱中する人の脳が異常になることを訴える人がいる一方、旧来どおりの「表現の自由」を楯にとってゲームの規制に反対する人もいる。有害図書の規制問題にも似た対立だが、脳が発達途上にある若年者に、異常な刺激を長時間にわたって与え続けることが「表現の自由」の名のもとで許されるのはオカシイと思う。喫煙や飲酒が若年者に禁じられている理由を考えれば、それは明らかだと思うのだが、これまでは「ゲームをすること」と「暴力を振るう」こととの因果関係が明らかでないとして、日本でも規制は緩やかだった。昨今の機器の高性能化と通信技術の飛躍的向上によって、ゲームの世界は現実に限りなく近づいてきているし、一部では現実を超えているものもある。早期の社会的合意が望まれるところだ。

 最近、私が知って驚いたのは、今日のインターネットを使ったパソコン・ゲームでは、そのバーチャルな世界で使われる様々な物品等を売買するために、国際的に盛んに金銭の移動が行われているということだ。そしてさらに驚いたのは、そういうゲーム上の物品を先進国の参加者に売るために、中国にいる若者たちが“ゲーム漬け”の生活をしているということだ。12月9日付の『ヘラルド朝日』紙が、そのことを詳しく報じている。それによると、中国南東部の福州市(Fuzhou)の古い倉庫の地下には、パソコン数十台を背中合わせに何列も並べた部屋があり、そこで若者たちがインターネット・ゲームを仕事としてやっているそうだ。1日12時間交替、休日返上でやっているというから、普通の“遊び”ではない。

 このゲーマーたちは、画面上に現れる怪物を殺したりして得た“金貨”や得点を集めて、それをインターネットを介してソウルやサンフランシスコにいる韓国人やアメリカ人のゲーマーに売るのである。韓国やアメリカのゲーマーたちは、それを買うと「低いレベル」でのゲームを省略して「高いレベル」からゲームに参加することができるという仕組みだ。具体的には、彼らは中国人から買った“金貨”で、ゲーム上の「剣」「魔除け」「魔力」などを入手し、より強力なキャラとなってゲームに参加する。これによって、中国人ゲーマーたちは月250ドルほど稼ぐという。今、こういうオンライン・ゲームには毎日、世界で1億人もの人々が参加しているらしい。そして、中国にはこのような秘密の“ゲーム工場”が何百、何千もあり、そこで10万人以上の若者がフルタイムでゲームをしているというのだ。
 
 ところで最近、アメリカで暴力的なコンピューター・ゲームが実際の暴力行為に関係しているとの研究結果が発表された。ゲームをすることと暴力との「相関関係」は、これまでにも数多く指摘されてきたが、今回の研究は、ゲームをすることで暴力的になるという「因果関係」を示すと考えられている。12月12日の科学誌『NewScientist』のニュースサービスが伝えている。
 
 これまでの研究で、ゲームと暴力との「相関関係」が指摘されても、「もともと暴力的な性向の人が暴力ゲームをよくするだけで、ゲームが人の性格を変えたとは言えない」との反論ができた。しかし、ミズーリ大学の心理学者、ブルース・バーソロー博士(Bruce Bartholow)らのチームが行った研究では、暴力的ゲームをよくする人は、例えば、銃による攻撃のような現実の暴力行為を目の前にしても脳の反応が鈍くなる一方、死んだ動物や病気の子供を目の前にしたときの反応は鈍化しないことがわかった。この研究では、ゲーム好きの39人を被験者とし、まず被験者がどれだけ暴力的ゲームをするか調査票で訊いた後、現実に起こった出来事の写真--大半は暴力と無関係の写真を見せるのだが、ときどき暴力的シーンや暴力的ではないが否定的意味をもった写真を混入させて見せたという。すると、暴力的ゲームをする機会の多い人ほど、実際の暴力シーンの写真を見ても脳波に反応が起こらない一方、その他の否定的な場面の写真には、普通の人と変わらない反応が起こったという。

 当たり前といえば当たり前の結果かもしれないが、こういう科学的研究が数多く発表されていても、「それじゃ、暴力ゲームを規制しよう」とならないところが不思議である。だから、現時点では、良識ある親たちが意を決して、子どもに暴力ゲームを「させない」「買わない」「見せない」努力をするほかはないと思う。
 
 犯罪心理学者で精神鑑定医の福島章氏が書いた『子どもの脳が危ない』(PHP新書、2000年)の中には、次のような指摘がある:
 
「日本のように、毎日どぎつい暴力描写がくりかえされるテレビを見ながら育った子どもたちが、やがて思春期や青年になったときに、ある種のささいな刺激やストレスが加わったとき突然に暴力行為に移るのは、けっして不思議ではない。(…中略…)暴力的な映像には、その攻撃性を『代理満足』によって昇華させる働きと、学習によって増強する作用の二面があることも考察した。マクロで見れば、子ども番組といわずおとな番組といわず、これほど暴力が氾濫する日本で、ここ数十年、たとえば少年の殺人数が増加していないのは、おそらく代理満足の効果が発揮されているからであろう。しかし、その反対にミクロのケースを詳細に調べれば(暴力非行を犯した少年を調べてわかることは)ほとんどの場合彼らの問題行動のモデルが、広く視聴されているビデオや大部数を稼いだコミックスの中にあることがわかる。これは、学習効果による模倣の結果である。」(p. 186)
 
 特定の予備校の特定の先生だけがオカシイのではなく、刺激の強い暴力シーン、セックス描写を「売らんかな」の目的でテレビ放送、パソコン・ゲーム、そしてコミック中に描き続けてきた大人社会全体がオカシイのである。
 
谷口 雅宣

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