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2005年12月23日

ID論、法廷で敗れる

 本欄で何回か取り上げてきた「知性による設計」(intelligent design、ID)論が、アメリカのペンシルバニア州の法廷で「科学として学校で教えることは違法」と判断された。生物進化を説明するためにダーウィンの進化論に意義を唱える形で登場してきたIDだが、同国初の法的判断では「科学」とは認められず、これを科学として公立学校で教えることは、公務員が自己の立場を利用して特定の宗教を強制したり確立することを禁じる合衆国憲法修正第一条に違反する、という判決である。12月22日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えている。

 この裁判が起こされた経緯については9月29日の本欄を参照してほしいが、その時、私が書いた感想--「論争がある」という事実を高校で教えることに、私はあまり問題を感じない--よりも厳しい判断である。記事を読む限りでは、この判決のポイントは「IDは科学に非ず」との認識にあるようだ。では、科学とは何かというと、判決では「検証可能な仮説」(testable hypothesis)の上に成り立っていなければならないという。にもかかわらず、IDは自然界の背後に超自然的な知性の存在を認めるのだから、天地創造説の別名(creationism relabeled)であり、特殊な形のキリスト教であるとされた。この判決を書いたジョン・ジョーンズ判事(John Jones 3rd)がブッシュ大統領から任命された裁判官であることを考えると、同大統領には少なからずの“痛手”を与えたのではないだろうか。

 この判決に対し、ID擁護派の人たちは「IDは科学である」との立場を崩していないようだ。ID側の主任弁護士をしたリチャード・トンプソン氏(Richard Thompson)は、「一つの法廷が千の意見を付して、ある科学的理論の無効を論じても、その理論が無効になるわけではない」と言っている。また、ID推進派の科学者の1人であるマイケル・ベヘ博士(Michael Behe)は、ジョーンズ判事が「IDは科学でない」と判断したことに不満を示し、同判事は法律家としての判断領域を超えた判決をしていると批判している。
 
 判決はしかし、ダーウィンの進化論を「完璧な科学」としているわけでもない。ジョーンズ判事はダーウィンの進化論は不完全であることを認めたうえで、「しかし、科学的理論がすべてを説明できないからといって、宗教にもとづく検証不能の代替理論を科学の授業に導入したり、充分に確立した科学的命題を誤って伝えるための口実とすることはできない」と言っている。つまり、ダーウィンの進化論が生物の進化のすべてを説明できなくても、それが検証可能である限りは科学的仮説であるから、それをすべて放棄して、代りに検証不可能の仮説を「科学」として教えるわけにはいかない、ということだろう。私もそう思う。ただし、科学として教えていけないのであれば、「唯心論」や「自然神学」などとともに、哲学や宗教・神学の中で教えるのはいいと思う。また、ガリレオなどとともに「科学思想(史)」で触れるのもいいかもしれない。今後の展開に注目しよう。

谷口 雅宣

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